フリージア

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16 青い刹那



『エラー送信。@から前を…──』

昨日の夜、何度アドレスを見直しても結果は同じ。切原君には申し訳なかったけど、仕方がないから送るのは諦めた。


「なーに携帯見てんだよ」
「む、向日先輩!びっくりした…何でもないですよ」
「結花ちゃんアヤC〜!」
「ジロー先輩まで!」


再度エラーメッセージに目を通していたところを向日先輩に見つかった。首に回された向日先輩の腕と、直ぐ近くにいたジロー先輩にピッタリとくっつかれて身動きがとれない状況。


「な、何でもないですってば〜!」
「へー」
「ふ〜ん」


切原君にメールが送れなかったんです。…なんてことは口が裂けても言えない。だけど否定すればするほどジト目で私を見る先輩たち。


「…何やってんだよお前ら」
「亮君!」


あぁ救世主。神様。


「宍戸さんどうかしましたか?」


亮君の後ろから長太郎君も顔を出した。


「結花の行動が怪しい!」
「アヤC〜!」
「はあ?つかお前等、次練習試合だろ。行かなくていいのかよ」


呆れた顔をした亮君の親指が指した先にあるホワイトボードを目で追う。

確かにそこには“Aコート 向日vs芥川”の文字がしっかりと書かれていた。


「やばっ忘れてた!行くぞジロー!」
「A〜!結花ちゃんー!」
「結花はあと!じゃな」


無理矢理私にピッタリくっついていたのを剥がし、ジロー先輩を引きずりながら2人は部室を出て行った。


「たく、あいつらお前を構うときが一番楽しそうだよな」
「あは、は」


喜んでいいのか悪いのか。複雑にも感じながらまだ手に持っていた携帯を鞄の中にしまった。


「結花は行かなくていいの?」
「え?」
「“え?”じゃなくてアイツ等のスコア取りに行くって言ってただろーが」
「あ、わ、忘れてた!行ってきます!!」


一瞬そんなこと言っていただろうかと頭の思考を巡らせたが、これが跡部先輩からの命令だったことを思い出し、慌ててスコアブックを手に部室を飛び出した。


「変な奴」
「…ですね」


結花が走っていく姿を窓から見ながら宍戸さんが顔をしかめた。そのとき結花が出て行った扉が音を立て、一試合終えたのであろう日吉がタオルを片手に部室に入ってきた。


「お疲れ日吉」
「あぁ」


短く返事をしては椅子に腰を下ろす。


「なぁ若」
「はい?」
「結花になんかあったと思うか?」
「結花に…ですか?」
「変なんだよな、あいつ」


ついさっきの結花の姿を思い出し、宍戸さんの切れ長の目が日吉を見る。


「昨日向日さんたちと出掛けたんだっけ」
「それがどうした」
「そのとき、いやその後でも…あいつに何もなかったか?」


宍戸さんの視線に耐えられなくなったのか、そっと視線を斜め下へと移動させる。


「宍戸さん」
「あ?」
「あなたがそう言う風に結花を心配するのは…幼なじみだからですか?」
「なっ!?」
「日吉!」


カッと宍戸さんの頬が紅潮する。下げていた視線を上げ、その表情に悪戯の様な不適な笑みを浮かべ、俺たちを見た。


「冗談です」


直ぐに表情を戻し、失礼します。と何も言わないままタオルを置いて部室を出て行った。





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