18 重なる感触
「ファイトでーす!あと3周ー!」
テニスコートの奧に広がるグラウンドに結花の声が響く。ランニングの真っ最中だ。
「あないに可愛ぇ子に応援されたら頑張るしかないなぁ」
「お前には負けねーよ侑士!」
「おい岳人!ペース乱してんじゃねーよ!」
軽快な走りで向日先輩の体が1つ2つ分前に出て、亮君の怒鳴る声がする。
「赤也、お前さんも張り切らんでいいんか?」
「だって俺がここで調子に乗ったら、真田副部長に怒られますって」
「何か言ったか赤也」
「な、何でもないっス!」
「ふぁー…」
自然に囲まれる中で大きく息を吸う。暖かい、それに気持ちいい。ジロー先輩じゃないけど、こんなに良い天気ならお昼寝もしたくなる…って。
「ん?」
先頭の向日さんから順に頭を追っていく。最後の桑原さんまで到達して気付いた。…ジロー先輩…いない。
「あ、はは。仕方ない、か」
さっきまで胸に溜まっていた良い空気が溜息として吐き出される。後で空き時間に探しに行こう。
そんなこんな考えているうちに、ランニングを終えた人たちが戻って来た。
「お疲れ様です。あれ、向日先輩は?」
「岳人の奴、スピード上げすぎて落ちてやんの。全く、激ダサだぜ」
いつもと変わらずタオルとドリンクを受け取りに、私の周りに集まってくる氷帝のメンバー。
「べ、別に疲れてねーし」
「それ誤魔化しできへん、岳人」
「うるせーよ侑士!」
「フッ」
「日吉今笑ったろ!」
どこに来てもこの人たちは変わらないな。その輪を外れて立海の方に足を進める。
「お疲れ様です。タオルどうぞ」
「ありがとう、瑞河さん」
近付くと私の入るスペースを開けてくれた。タオルの籠を前に出すと、近くにいた幸村さん、柳生さん、柳さん、丸井さんがそれに手を伸ばしてくれる。
今日何度見れたか幸村さんの優しい笑み。思わず祈りたくなる。
「何笑ってるんだよぃ」
「え!なんでもないです」
「君が精市のことを教会のマリア様と重ね合わせている確率…100%」
「柳さん!」
何でわかったんだろう。
光栄だね、と、ふふっと笑う幸村さん。思っていたことをばらされ顔に熱が集まる。
「おーおー真っ赤にして可愛いのぉ」
「あわ、わ…!」
横から顔をのぞき込まれ、垂らしている横髪を仁王さんに掬い上げられる。
心臓に悪い…!
「ちょ、ちょっと先輩たち!」
「赤也が妬いとるぜよ」
「〜〜っ!仁王先輩っ!」
「おー怖い怖い」
怖いのはあなたの方です!怖い、仁王さん怖いよぉお!
「さ、真田さんタオルどうぞ!」
「すまんな」
「いえ」
「真田の方に逃げたぜよ」
「仁王君、あなたって人は」
「桑原さんも!」
「あぁサンキュー」
「すまないね瑞河さん。うちの部員の分まで」
「とんでもないです。合同合宿ですからできることは言ってください」
あぁ、安全地帯。
「完全に警戒されてしまったぜよ」
「自業自得ですね」
「やーぎゅ。今日は随分強気じゃな」
あれ、あと1枚余ってる。
「切原く──」
まだ手渡していなかった切原君に声を掛けようとしたところで、右の肩をくいっと引かれる。また仁王さんか、と思って恐る恐る顔をそちらに向けた。