19 お節介の同士
「わぁ…跡部先輩の家のシェフがいっぱい」
「跡部ン家のことは、もう中学の時点で分かり切ってるぜ」
夕食時の食堂。
何を食べようと、亮君が持つ食堂のメニュー表を隣から覗き込む。
「いっぱいあるね」
合宿中の食事のメニューは決まっているわけではなく、跡部先輩の家から沢山のシェフの人たちが来ている為、レストランの様に好きな物を食べろと言う…
「俺パスタ食いてー!」
「向日先輩!」
突然亮君と私の間からメニュー表に手を伸ばす。丁度、長太郎君と若も着替え終えて食堂に集まって来ていた。
「鳳、日吉何にする?」
「そうですね」
「注文制なんですか」
「岳人、俺らまだ決めてねーんだけど」
亮君が間から取られたメニュー表に愚痴を零す。
「私オムライスにしよっかな」
「オムライスって昼食じゃないのか?」
「え、そんなことないよー」
「日吉は何にしたの?」
「親子丼」
そう言って私の横に腰を下ろした。向かえには長太郎君。
「なんや。もう席着いとるし」
「おっせーぞ、侑士」
「自分らが早過ぎんねん」
「忍足先輩何にします?」
誰も手にしていなかったメニュー表を忍足先輩に渡し「せやな…」と悩み始める。
跡部先輩と樺地君はまだ姿がない。ジロー先輩は座りながら頭が船漕いでるし…
「何だよお前、こんなとこに居たのかよぃ」
「丸井さん?」
ポンッと肩に手を置かれ声のした方に顔を向けると、赤い髪の毛がさらりと揺れる。一歩後ろでは仁王さんが結んだ髪を弄りながら私を見下ろす。
「えっと、何かありましたか?」
「いーや。只、飯一緒に食うの誘いに来ただけ」
「うちにはお前さんに興味がある奴が、ちらほら居るもんでな」
仁王さんの言葉を訝りながらも「はあ…」と呆気に取られた様な返事をした。
「まっ今日はいいや。仁王、腹減ったから行こうぜぃ」
「プリ」
腹の虫が鳴るお腹をさすりながらこの場を離れて行った。
「おい、結花のオムライス出来てんぞ」
「あっ、ありがとう。亮君」
途中席を外したと思えば、両手にトレーを持った亮君が長太郎君と戻ってきた。
「チッ」
突然聞こえた舌打ちに反射的にその方向に顔を向ける。
「若…?」
向いた方向は親子丼を口に運ぶ若。
気のせい、かな…?
若の向かい側の忍足先輩がなぜか楽しそうに笑う。
「起きてください。芥川さん」
「…ん〜…なになに…?あ〜カレーだあ」
「頭だけは突っ込むなよジロー」
「突っ込まないC〜」
氷帝全員の料理が揃った頃、同じように立海の方も揃ったようだ。トレーを手にした幸村さん、真田さん、柳さんとそれぞれ目が合って会釈をする。
そう言えば亮君以外の人のラフな格好って初めて見たかも。うん、新鮮。
「お前ら全員揃ってるか?アーン」
どこから出てきたのかスタンドマイクの後ろに立つ跡部先輩。樺地君も居る。
「相変わらずだね、跡部」
「マイク使わなくても聞こえますって」
聞こえてきた切原君の言葉に「確かに」と丁度目が合った向日先輩と頷いた。
「数日と言う短い合宿だが、有意義に過ごしたいと思う。他人の良いところは盗め、そして互いに成長しろ。ま、俺様から言われるまでもないと思うが…」
「跡部お腹減ったC〜!」
さっきまで寝ぼけ眼だったジロー先輩が、スプーンをかちゃかちゃと鳴らして跡部先輩に向かって声を上げる。
「待ってろジロー。全員グラスを持て!初日だ。乾杯と行こうじゃねーの。準備は良いか?…乾杯っ!」
カチャンとグラスのぶつかる音が響く。合宿でも乾杯なんて、跡部先輩らしいと言えばらしいんだろうな。
「おいしー!」
ふわりと卵が優しく口の中に広がった。みんな一緒っていいな。
合宿ってこんな感じなんだって、周りを見渡して胸が高鳴った。