01
「柚依、ほら早く!」
「ミキちゃん、あたしはいいってば」
「よくない!」
週に何回かこんな風に、アイツは山田に引きずられてフェンスの外まで来る。
同じクラスの柚依。
一応オレの片想い相手。控えめで小さくて可愛いヤツ。
「おい阿部ー!何してんだ!バッティング練習始めるってよ!」
「あ、おう!」
バットを握ったまま柚依を眺めていると、泉に声をかけられてオレはグラウンドに戻る。
バッティング練習のところからでも見えるあの2人。
ホント控えめな柚依は、山田の後ろで覗くようにしてオレらの練習を見ていた。
「ねえ柚依、そんなところで見てたらあの人ちゃんと見れないよ?」
「だ、だって」
みんなの威勢のいい声とバッティング音で、会話は全くオレには聞こえない。会話は聞こえないけど、ただわかるのは柚依がある1点だけを見つめていること。
「(どこ見てんだ、あいつ)」
「阿部、君」
「あっ?何だ三橋」
「あの、子、阿部君と、同じクラスの、柚依ちゃん、って子だよ…ね?」
「ああ、そうだけど。ってか何で三橋が知ってんの?」
「えっあ、う…た、田島君が」
「田島?」
「あっ!柚依ー!!」
「ゆ、悠君!」
「はっ?」
いつもの様にオドオドしている三橋と話をしていると、田島が1球打ってからバットを放り投げて柚依のところに走って行った。
そしてオレは、柚依が田島のことを“悠君”と呼ぶことに目を丸くさせた。
「今日も来てたんだ!」
「うん!練習、頑張ってるねっ」
オイオイ。なんであいつ等あんなに仲いいんだ?
まさか…
「おい田島!」
「うおっ!花井!」
「!!」
「お前またバッティング途中で放り出しやがって!」
「放り出してないよ!」
「いいから来い!あっ悪ィな、柚依、山田」
「全然。田島連れてっていいよ」
「おう」
花井は山田に短く返事をすると、グチグチ言いながら田島を引きずって戻ってきた。
遠くてよくわからないが、さっきより少しだけ柚依の頬が赤くなっているのは、オレ気のせいだろうか。
そう思いながらバットを置いて田島の方に歩いていった。
「田島」
「え、何?」
オレの方に顔を向ける田島に気まずくなって唇を噛んだが、直ぐに口を開いた。
「お前と柚依って…どういう関係?」
「オレと柚依?オレと柚依は──」