01 栗色の髪の少女
「それじゃあリアナ、行ってくるからね」
「良い子にして待ってるのよ。モンド、ルカ。宜しくお願いしますね」
「あぁ」
「気をつけて」
「──…さん、──…さん。いってらっしゃい…」
────……
誰…?
あの日、私の目の前から去ったのは一体。
見えない、分からない…。
私は誰を送り出したの。
記憶にあるのは大きな海とそれに浮かぶ大きな船。
そして私の頭の上にあったパーパの大きな手と、しがみついていたルカの足。
ねぇ、あなた達は…誰?
孤独な記憶
─ Memoria solitaria ─
「おいルカ、リアナとバンビーナはどうしたァ」
「さぁ…朝食後2人で部屋を出て行ったきり見かけていないのですが」
どこに行ったんでしょう、と“ルカ”と呼ばれる帽子の男がティーポットを持ちながら辺りをうろうろとしている。
「オマエそれでもお嬢の従者かよ」
「なっ!?」
銀髪の眼帯の男が悪態をつきながらカップに口を付ける。
「あはは!言うねーデビト。さぁドルチェドルチェ!いっただっきまーす!」
「パーチェ…もう少しお上品に食べてください」
眼帯の男は“デビト”。そして“パーチェ”眼鏡の男がルカの言葉を無視して大口でドルチェを頬張る。
「んー!やっぱりルカちゃんのドルチェは最高ー!」
「やれやれ…」
レガーロ晴れの空の下。
彼らの後ろの大きな館によく似合う広い中庭の真ん中で、優雅に(?)お茶をする3人の男達。
「それにしても、本当にお2人はどちらに行かれたのでしょうか…」
空になったカップにお茶を注いでポットをテーブルの上に置く。
「リアナが一緒なんだから、お嬢も心配ないんじゃないかなぁ」
「まぁそうかもしれませんが」
3人が顔を見合わせた。
そのあと思い出したかのようにルカがぽんっと拳を手のひらに打った。
「もしかしたらノヴァのところに居るかもしれません。リアナの行動範囲は自由ですから」
そうと決まれば早速…と足を踏み出した瞬間、その青髪の少年“ノヴァ”が部下を連れて、3人の目の前を通り過ぎようとしていた。
「ノ、ノヴァ」
「ルカちゃんの読みはハズレのようだなァ」
ククッと笑うデビトの声にノヴァが振り返った。
「何をしている」
「何って、見ての通りお茶会中だゼ?」
「ノヴァも少しは休憩しなよぉ!」
「僕はこれから巡回だ」
「ノヴァ」
真面目だなぁ、とまたドルチェを口に含むパーチェに向けて、呆れた表情を浮かべるノヴァにルカが声をかけた。
「何だ」
「お嬢様とリアナを見かけませんでしたか?」
「フェルとリアナ?…それなら──」
朝食後部屋を出た後、2人はノヴァの執務室を訪ねたとのこと。
そして執務室から外を見るや否や、何かを指差して2人は直ぐに出て行ったという。
「それでお2人は…」
「きっとマンマの庭園の方だろう。僕の部屋から見える辺りだ」