孤独な記憶

□05
1ページ/2ページ


05 黒い瞳は何を見せる



「あれ、デビトいないの?」
「あぁ、カポなら朝から見ていないな」
「そっか…」


昼間から賑やかなイシス・レガーロに、黒いスーツを身に纏った栗色の髪のシニョリーナ。


「リアナ、カポに用事か?それなら遊んで待っていれば…」
「んん。通りかかっただけだから今日はいいや。またねロロ!」


手をヒラヒラと振って扉に近づき出る手前で振り返ると、お客様を送り出すときと同じ様にロロが深々と頭を下げていた。



***



「眩しっ…」


暗い階段を駆け上がって行き外に出ると、広がるのはレガーロ晴れの闇のない澄んだ青空。

市場に近付いて行くと沢山の人人人。その人混みに紛れる見覚えのある黒い帽子。手には大きな紙袋を抱えながらも足取りは軽く、近付いたら鼻歌が聞こえそうだ。


「おや、リアナじゃないですか。どうしたんです?こんなところで」
「今日も暇だから巡回という名の散歩中。ルカは?」


黒い帽子の正体はもちろんルカだ。


「私は買い出しです。ほら、そろそろでしょう?」


そう言って袋の中身を覗かせる。小麦粉に卵、それにチョコレート。


「…ピッコリーノ!」
「当たりです」


ふわりと笑顔になるルカ。教会で子供達の為に開くピッコリーノは私も大好きなイベントだ。


「今年もお菓子の準備、手伝って貰えますか?」
「もちろん!」


ルカの頼み、そして子供達の為にすることなら嫌とは言えない。


「重そうだね。館まで手伝おうか?」
「いえ大丈夫です。それにまだ寄るところがありますし」
「そっか…」


市場の奥に歩き出すルカの背中を見送っていると、何かを思い出したようにこちらを振り返った。


「そういえばさっき港に船が入ってきていました。リベルタ達が帰ってきたのかもしれません。気分転換に行ってみてはどうですか?」
「そうする」


ルカの手伝いができないのは残念だが、確かにさっき港に大きな船があったような気がする。


「あっルカ」
「はい?」
「デビト、見なかった?」
「デビトですか?そうですね…今朝から見ていませんが、もしかしたら部屋で寝ているのかもしれませんね」
「シエスタ中ってことか…ありがとう、ルカ」


ルカに別れを告げて市場を後にした。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ