13 手紙
「リベルター!この荷物はー?」
青い空、白い雲。まさにその言葉が似合うレガーロの海。
何人もの大柄な海男たちに混じって2人の少女が船と陸を行き来する。
「リアナのはニーノが居る奥の部屋で、お嬢のは甲板の中心に置いといてくれよ!」
「はーい」
倒れた日以来、海に近付いていなかった。
日差しの強さで倒れたなんてルカが言うから、間違いなく嘘だと思いたい。
「ニーノ持ってきたよー」
「おぉ、サンキューな。そこに置いといてくれ」
指を指された棚に荷物を押し込む。一気に腕の力が抜けた。
「しっかし、ダンテさんが女の子2人に荷物の積み込み頼むなんてな」
「はは、違うよ。私とフェルがお願いしたの」
暇だったしね。と小さな窓を開けると、生暖かい潮風がふわっとリアナの頬や髪を撫でた。
「甲板行ってくるね」
「おぅ。転ぶなよ」
ゆっくり降りてきた階段を軽くなった体で駆け上がる。
***
「フェル!」
甲板の先で海を眺める彼女に声を掛ける。海とは対照的な色を持つフェルの髪色。
「リアナ、体は大丈夫?あんまり無理しない方が…」
「平気。もうピンピンしてるし!」
その横に肩を並べて同じ方向に目を向けたところで小さな魚が跳ねた。
──ふと違う景色が脳裏を横切った。ハッとした表情にフェルが首を傾げる。
「リアナ…?」
「あ、ごめん。ちょっと小さいときのこと急に思い出して」
「小さいときのこと?」
エメラルドに似た色の目を見開いて不思議そうにしていたフェルも、私の横顔を見て笑みを浮かべる。
「うん。こんなに綺麗な船じゃなかったけど。霧が濃い日、ルカと買い物に出てたんだけどはぐれちゃって」
いつの間にか港に出ていたら、見たことのない船が浮かんでいた。
「ダンテの船だと思って勝手に乗っちゃってね。そうしたら知らない男の子が居て“誰だオマエ”なんて言われたの」
「リアナって、おっちょこちょいだったんだね」
「はは、そうみたい。停泊してる船だったみたいで、その子に会いに何回か遊びに行ったんだけど、急に船ごと居なくなっててさ」
悲しかったな、と空を見上げた。
「どんな子だったの?名前は?」
「それが残念だけど思い出せなくて…」
「そっか。でも、また会えるといいね」
「そうだね」
2人の周りを潮風が吹き抜ける。
「リアナー!お嬢ー!」
陸からリベルタの声がする。声のする方向に移動して下を覗き込むとパーチェの姿もあった。その後ろにはピノやクラウディオも控えていた。
「2人共迎えに来たよー!ご飯行こうよー!」
「パーチェ!今行く!」
大きく手を振るパーチェに笑顔で応える。棍棒のみんなと約束していたランチ。今日もきっとラッザーニアだろうな。
「フェル、行こ」
「うん」
船を降りようと踵を返したときだった。
「あぁ、リアナ捜したぜ」
「オルソ…?」
手に封筒をちらつかせているオルソ。何だか嫌な予感がする。
「相談役様からだ」
「!」
見せられた封筒の赤い刻印は間違いなくジョーリィの物で、重みの感じないそれを礼を言って受け取った。
「フェルごめん。ランチ行けそうにないや」
「え?」