06 夢は大きく
「うん、こんなもんかな」
洗濯物も干したし、さっきまで砂っぽかった床も、雑誌やスコアが積み重なってた机も綺麗さっぱり。朝からお掃除すると何か気持ちがいい。
「おぉ綺麗になったやん。お疲れ様やなぁ、結花ちゃん」
「ありがとうございます、忍足先輩」
褒められたと思ったら、後ろから頭をポンポンと優しく撫でられた。
「あの、私の頭って撫でやすいですか?」
「撫でやすいというより、撫でたくなる頭やな」
そうですか、と少し嬉しくもなりながら素直に頭を撫でられる。
「あーっ!忍足!結花ちゃんに何してんのさーっ!」
「!、ジローせんぱ…ぶっ!」
「おっしー、セクハラすんなC!」
「あほ、ジロー。朝から掃除頑張った結花ちゃんば褒めとっただけやろ」
バンッ!と、ジロー先輩が部室に入ってきたと思ったら突然のダイブ。
よろけた体にグッと力を込めて何とか耐えたが、首に腕を巻かれ抱きつかれていると、どうして良いかわからなくなる。そんな、忍足先輩を睨まないでくださいよー…
「なんだ、ジロー今更来たのかよ」
「お前ら早くしねぇとHRに遅れるぜ」
「そうだよ。結花行こう」
「え、ちょっと待って長太郎君!」
向日先輩、亮君、長太郎君。出て行く前にジロー先輩から解放してよ。
「…ジロー先輩、そろそろ腕解いてください」
「えー」
あの…えー、じゃなくて。あぁもう困ったな。
「芥川さん」
「んあ、何だよ日吉ー」
「結花が困ってます」
そう言って、グイッと私の首に巻かれたジロー先輩の腕を、少し強引に解いていく。
「まったく」
「だって結花ちゃん、抱き心地良いC〜」
「なっ」
そんなことを間近で言われると、恥ずかしくてかぁっと頬が熱くなる。
「そういう問題じゃ…あ」
やれやれ、と若が溜め息を吐きながら言うと、それを遮るかのようにチャイムが鳴り響いた。
「予鈴だC〜」
「チッ。結花、走るぞ」
「え、ちょっ」
確かに3年生と違って、部室から2年の教室までは結構な距離で、歩いてギリギリ…あるいは間に合わないかもしれない。
足早に部室から出て行く若の背中を小走りで追いかけた。