一冊目の物語
□些細な幸せ
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最近どうも、アイツが気になる。
都筑に解放された後は、好きにやってるみたいだけどな。
滅多に見ない。
せいぜい一日一回、姐さんに追っ掛け回されて軽くあしらってるのを見る位が関の山だ。
姐さんも懲りないよな、ホント。
そんなアイツだが、今日はたまたま天空城敷地外で発見。
「よ」
誰かが近寄っても無視。
これがコイツの普通だ。
そのまま近くに腰を下ろす。
場所を空けてくれる程、心遣いの有る奴じゃないのでわざと至近距離に座ってやった。
「………キスしたい」
なんて、唐突に俺が言ったら。
あんなに近くに居た筈なのに、黙りこくったまま静かに離れた。
引いてんのか、この野郎。
コレはキスしたら鉄拳だな
あの爪のお陰で半端なく痛い鉄拳。
まぁ、蹴られないだけマシか。
「なぁ…」
「煩い」
「騰蛇」
「うるさい」
「しよ」
「黙…ッ」
「ごちそうさま」
案の定、ぶん殴られた。
俺の顔を見た貴人はクスクス笑い、六合が呆れたように溜め息を吐く。
それでも俺は幸せな気分だった。