拍手ありがとうございます!


※連載ED後


【不意討ち】ヒロインver.




「……え、っと……ジェイド?」


資料室から必要な資料を借りて、執務室に戻ってきた。
この後のことで頭がいっぱいだったからか、執務室に入った所でさっきまで居なかったジェイドが目の前にジェイドが立っていることで私は一瞬思考も行動も停止した。
もちろんここはジェイドの執務室なのだから持ち主であるジェイドがいること自体は当たり前で、さっきまで居なかったとはいっても私が資料室に行っていた間に戻ってきていても不思議ではない。
なのに驚いたのはジェイドは今まで見たことのない目をしていて……その目が私を執務室に入った所で釘付けにしていた。

私の思考が再開するより前にジェイドの腕が伸びてきて…それでも思考の追い付かない体は動かない。私の顔に向かってくる手…その手は私の頭のすぐ横を過ぎ、直後パタンと開けっ放しになっていた扉が閉じる音がした。

役目を終えたはずのその手はそれでもそのまま扉に着いたまま。
ふいにジェイドが身体ごとスッと私に近付けてきて、私は反射的に下がった。けど、直ぐに背中が扉に着いた。

怖い訳ではない。ジェイドは怒ってはいないから。
真剣…が一番近いと思う。けれど仕事中の真剣さとは少し違う。
これは……


「どちらに?」

「え?…あ、資料室に」


問いに反射的に返したけど、それ以上を考えられない。


「そうですか……」


ジェイドは扉に伸びていた腕を曲げ、結果私との距離は更に縮む。いつの間にかジェイドの反対の手も私を挟むように扉に着いていた。
上目で見たジェイドの顔、そこに微かに妖しいものを感じた。
何かを警告するようにドクンと鳴る鼓動。でもどうすることも出来ない。

更に近付いたジェイドの顔は私の顔の横。耳にジェイドの吐息を感じる程に口を寄せて、


「いけない子だ…」


囁いた。


「どこにも行ってはいけません。貴女は私のモノなのですから」


頭が真っ白になった。

少し頭を引いたジェイドと目が合って、それでも何も言えず、ジェイドの瞳に吸い込まれるように見詰めてしまう。


───ジェイドがおかしい。ううん、きっと今は私の方がおかしいと思う。おかしくさせたのはおかしいジェイドなのだけど。ああ、思考がまとまらない。支離滅裂。だって今、心臓はうるさいくらいに高鳴って、顔が熱い、頭がくらくらする。
久しく忘れていたこの感覚は──


「──っ、ん……っ」


何も落ち着くより前に私の唇がジェイドの唇で塞がれた。
何度も角度を変えて、私の全てを吸われるような、でも満たしていくような、そんなキスに酔わされる。
腰から力が抜けていく…ジェイドはそれが分かっていたかのように支えてくれた。




息が苦しくなった頃、唇が離れる。
私は目を閉じたまま、ジェイドにゆっくり床に下ろされ、手を着いて座り込む。

い、今、何がおきてた?
ジェイド、だよね。ジェイドらしからぬ感じだったけど、間違いなく。
何かあったの?…ああ違う。思考が中断したけど気付きかけたそれだ。微かに、瞳の奥に微かに見えた、あれは何かをたくらんでいるジェイドだった。なら、これは悪戯?
不覚…ではないけど、ときめいた…多分人生で一番くらいに。

苦しかった息が整ってもジェイドから何のアクションもない。私からは恥ずかしくて見ることも出来ず、目を開けることも出来ない。
すると、近くからカサっと紙が擦れ合う音。そういえばキスの最中力が抜けて胸に抱えていた資料を落とした気がする。
それをジェイドが拾ってくれている。
確かにそれも大事なんだけど、釈然としない。
私は放置?あんなことして、床に放置されてる?
今の私の顔は真っ赤だろうし、恥ずかしいから見られたいとは思わないけど、でも……
きっと怒っていいことだよね。仕事中だったんだし。
ただ、こんな少女のときみたいにときめかされて、なのに放置されて仕事に戻ろうとしていることを寂しく感じてる以上、怒ることも出来ない。

今涙が出そうなのは感情の高ぶりからか、恥ずかしさからか、寂しさからか……




「……怒ってます?」


暫くして少し遠慮がちにかけてきた声に、ジェイドの戸惑いを感じた。つまり、悪戯に対する私の反応がジェイドが予想していたものとかけ離れていて、どうすることも出来ずに資料を拾うしか出来なかった?


「……ばかぁ、っ」


顔を上げて、きっと真っ赤で涙目で迫力なんて欠片もないだろうけど精一杯抗議の目をジェイドに向けた。

ジェイドは一瞬目を見開き、私を抱き締めた。


「……何で?」

「いえ…あまりにも美凪が可愛すぎて、そんな顔これ以上見ていたら理性を抑えることが出来なくなりそうでしたので、隠そうと、つい」


つい?目を閉じたり反らしたりする訳でもなく私を抱き締めて隠すって何かおかしい。それに私の精一杯の抗議を可愛いなんて評されるのも納得いかない。

手に力を入れてジェイドの胸を押すと、特に抵抗することなくわけですが、私を離した。


「知らないっ」


ジェイドに背を向けて、思わず出た言葉に自分でも呆れる。
分かってる。私は拗ねてるだけ……子供みたい。


「……やっぱり、怒ってます?」

「……違う、けど…でも、だって……」


泣きそうな自分が情けない。
足りないんだ私は。あんなことされて、足りなくて、でも今は仕事中でここは軍本部。TPOを考えればこれ以上は出来ない。そんな状況がやるせなくて、ジェイドが始めたこととはいえ、八つ当たりしてるんだ。


「クスクス……フフっ」


唐突に笑い声が聞こえた。
そして後ろから腰に手を回され、また耳に口を寄せてくる。


「すみませんでした。帰ったら続きをしましょう。それとも、最初からやり直します?」

「〜〜〜〜〜っ」


また顔に熱が集まる。こんな赤面したのは初めてじゃないかな。
心を読まれて恥ずかしい……


「可愛いですよ。…愛してます」


きっと今ジェイドは含みのある意地の悪い笑みをしているんだろうな。
私ばかりときめかされて、なんだか悔しい。…と思ってもジェイドはきっと何を言っても受け流しちゃうんだろうなぁ……
そう思いながら首を回すと、予想に反して、目を細めて本当にいとおしげな微笑みで私を見ているものだから。


「どうしました?」


それがわざとではなく、本当に心からの表情だとわかるから……何も言えなくなってしまった。
ずるい人。
だけど……


「私も……」


この先の言葉を言わないのが、せめてもの仕返し。



END
↓のジェイドver.を押すとジェイド視点での話になります。



拍手ありがとうございました!
感想などありましたら気軽にコメントいただければ嬉しいです。






[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ