novel

□ Buon giorno! B
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キミはいつも、俺の傍にいたから。
キミはいつも、俺の傍で笑っていてくれたから。
キミの大切さに、俺は気付いていなかったんだ。




Buon giorno!




長い夜が明け、京子はツナの下へ向かった。
答える為に。ツナに京子の思いを伝える為に。


コンコン。


「ツナ‥‥くん?」
「あぁ、いらっしゃい京子ちゃん。」


ツナの笑顔が京子には辛かった。京子は病室に入りツナに近寄る。


「――‥あのね。‥‥ツナくん‥。」
「うん。」
「‥私。中学の頃からツナくんに惹かれてた。一生懸命な所とか、誰にでも優しい所とか‥。」
「‥‥。」
「私。私ね。‥‥ツナくんが好き。」
「――――、ありが、」
「でも!」
「?」
「‥‥でも、私じゃ‥‥ないの。
‥‥ツナくんの言ってた“呼んでいた人”は私じゃない。
‥‥‥‥ハルちゃん‥なの。」
「えっ?」


いつの間にか京子の目には今にも流れそうな程涙が溜まっていた。


「‥‥私、怖くて‥‥、ツナくんがもう目を覚まさないんじゃないかって‥‥。眠っているツナくんを見るのが怖くて‥‥、
‥‥病室に行ったのは‥‥、あの日が‥‥初めてなの‥‥。
ずっと‥ずっと‥‥、ツナくんを看病していたのは‥‥、ハルちゃんなの‥‥‥。」


ツナは何も言わず、何も言えず、ただ京子の言葉を聞いていた。


「――――‥私、じゃ、ツナくんを守っていく自信が無い‥‥。でも、‥でも、ハルちゃんは――」
「分かった。もう分かったから。――‥ありがとう京子ちゃん。‥‥ちゃんと、伝えてくれて。」
「(ひっく)ツナくん。ツナくん、私。」
「頑張ったね。‥‥‥ちゃんと考えてみるよ。」


京子にはもう泣くしかなかった。
自分の弱さに。ツナの優しさに。涙はしばらく止まることはなかった。


ツナは京子を落ち着かせ、今日の所は帰ってもらう事にした。
そして、一人自分の思いと向き合う。


そういえば今までツナは、ハルの思いにちゃんと向き合った事が無かった。


「ハル‥‥か‥‥‥。」


――彼女に出会ったのは中学の頃。

それからずっと彼女は俺の傍にいた。俺がマフィアのボスになる事を知っていたが、全然気にしないで俺に引っ付いていた。
何度か危険な目に合わせてしまった事もあったが、それでも彼女は先ず俺の事を心配してくれた。
そして笑って俺の名を呼ぶんだ。

結局彼女は進学せず、俺に付いて来てくれた。今では立派な幹部の一員となり、情報班の指揮官も務めている。


でも、どんなに時が経っても、どんなに状況が変わっても、彼女は俺を見つけると、本当に嬉しそうに俺の名を呼び、俺の所に来る。

それは出会った頃から、ずっと変わらない。



「‥‥なんだ‥‥。ハルはいつも俺の事呼んでたんだ‥‥。」


もちろんツナは京子が好きだった。並森のアイドルと言われた京子が。
しかし、ハルとの今までの思い出を思い出し、もう一度京子の事を考えてみる。
それは恋といった愛情ではなく、憧れに近いものだった。


「俺‥‥、ずっと気付いてなかったんだ‥‥。
(いつもハルは傍にいたから。いつもハルは笑っていたから。それが当たり前になっていた。)
‥‥‥俺、ハルに言わなくちゃいけない。」


ツナが決心した頃にはもう夕暮れ時になっていた。


「行かなきゃ。」


ツナは簡単に身仕度を済ませ、病室を抜け出す。
まだ完全に治ってない体を、無理矢理動かす。



少しでも早くキミの下へ。思いをキミに、伝えるために。

橙色の夕日は、ツナを見守るように、温かく照らしていた。








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