novel

□ 透明な壁の向こう側
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最近、ツナさんがハルを避けます。

抱き付こうとするとその前にすぐに離れるし、近くで話そうとすると絶対に目を合わせてくれません。

‥‥ハル、もしかしてツナさんに嫌われてるんでしょうか‥。




最近、俺はハルと距離を置いてしまう。

ホントは抱き締めたいとか思うし、一番近くでハルの声を聞いていたい。

‥‥だけど、そんな願望にはひとつの不安が付いてくるんだ。




――――――
――

それぞれの悩みを抱えた2人は、次第にぎこちなくなっていく。
そんな状況に痺れを切らしたハルがツナを呼び出した。


「ツナさん。ちょっとお話があるんですが。」
「何?」
「‥‥ツナさんは‥。」
「?」

ここで泣いちゃ駄目です!と自分に言い聞かせ、ハルは拳をぎゅっと握り締めた。

「‥ツナさんは、‥‥ハルが嫌いになったんですか?!」
「‥‥はぁ?!」
「はっきり言ってください。ツナさんと一緒にいられないのも嫌ですが、同情なんか嫌ですからね!」

今にも泣き出しそうな顔で睨んでくるハルに、綱吉は一体何言ってんの?と尋ねたくなった。
嫌いになるなんてあり得ない。寧ろどうしようもないくらい好きでしょうがないのに。

「‥ハル。俺がハルを嫌うなんてあり得ないし、好きに決まってるだろ?」
「だって‥‥。」
「‥うん。」
「‥最近ツナさんはハルを避けるじゃないですか。すぐに離れちゃうし、目も合わせてくれませんし‥‥。」
「あー‥‥。」

今までの不安を話すと、ツナさんは黙り込んでしまった。
困らせてしまったのかもしれません。でも、ハルはもうこんな状況は嫌なんです。

「‥えっとさ、その‥。」
「‥‥。」
「ハルが嫌な訳じゃないんだ。その、なんか、俺が触ったらハルが壊れちゃいそうで‥。」
「‥‥はひ?」
「あー、だから抱き締めたいとか思うけどそしたらハルが壊れそうとか、細いし折れそうとか思って怖いんだよ。」

しどろもどろに言うツナさん。
自分が不安がっていた事がばかみたいに思えてきて、ハルはくすくすと笑った。

「‥笑うなよ‥。」
「ふふ、だってツナさん、ハルはそんな簡単に壊れたりなんかしませんよ?」
「そーだけどさ。」
「大丈夫ですって。」

こちらの不安を消してしまうように柔らかに笑うハルを見て、綱吉は何だか自分が阿呆らしく思えてきた。
だけど、やっぱりまだ儚く思えてしまって一度差し伸べた手を元に戻す。

「‥‥。」
「‥あの、ツナさん。」
「ん?」
「えっと、‥‥。」

言うのが戸惑われ、最後まで言葉を紡げない。
気付いてくれないかなと他力本願してみるが、さっきまでの会話から考えて、きっとハルから言わないといけないんですよね。

「‥つ、ツナさん!」
「え?」
「抱き締めて下さい!」
「うん。‥‥って、えぇー?!」
「駄目ですか?」
「や、駄目じゃないけど‥。」
「ハルはツナさん不足なんです!」

顔を真っ赤にして勢い良く話してくるハルに、かなわないなぁと苦笑した。
あー、ヤバイ、可愛過ぎる。

「いい?」
「き、聞かないで下さい!」
「じゃあ遠慮無く。」

ぎゅっと抱き締めてくれるツナさんの腕は、まだ壊れ物を扱うように優しい。だけど、それは大切に思ってくれてる証拠なんだと思うと擽ったくなる。
ハルは温かさを感じるようにそっと体重を預けた。

「ハール。」
「何です、か。」

ちゅ。

軽く唇に触れるようなフレンチキスが降ってきた。

ハルは一瞬の出来事に、理解するまで数秒を要す。
手は抱き締められていて動かなくて、真っ赤な顔を隠す事も出来ない。
目も見つめ合ったままで吸い込まれるような瞳から逸らす事も出来ない。
ハルを見つめながらゆっくりと耳元に口を寄せ、綱吉は甘く囁いた。



「我慢しないから、覚悟してね。」




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