novel

□ 愛のはじまり
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※このおはなしは元拍手、「夢物語のはじまり」の続編となっています。
単体でも支障はありませんが、先にそちらを読んで頂いた方がより楽しめると思います。

↓↓








ツーくんが並森に帰ってきて1週間。ほとんど成り行きな形でお付き合いを初めて1週間。
その後のハル達はどうなったかというと、‥‥‥



「お邪魔します。お義母さん、おはようございます。」
「あら、綱吉くんおはよう。今日もありがとう。」
「いえ、僕が来たくて来ていますから。」
「そう?綱吉くんはいい子ね〜。」
「‥‥お母さん。」

朝からツーくんはハルの家に迎えに来てくれるんですけど、毎日のようにお母さんに好印象を与えている気がします。
ハルがフクザツな顔をして2人を見ていたら、お母さんは取らないから安心しなさい、と含み笑いを込めながら学校に行くように促す。
最初から行くつもりでしたよ!と抗議をしても照れ隠しだと勘違いされてしまう。

「はぁ‥。朝から疲れます‥。」
「おはようハルちゃん。大丈夫?しんどいなら俺が抱えていってあげようか?」
「‥結構です。」

それもこれもツーくんが原因なんですよ。じろりと睨んでみるがお返しに素敵な笑顔をくれて、ハルはまぁいいかと思い流されてしまう。
昔からこの笑顔には弱い。

「んー良い天気だね。帰りにどっか寄ってかない?」
「はい。あ、ハルこの前リニューアルしたケーキ店に行ってみたいです。」
「うん、いいよ。約束な。」
「はい!」

嬉しくて足も軽くなる。
ちらりとツーくんを盗み見ると、視線に気付いてなに?と話し掛けてくれる。ハルはいいえと答えて視線を前へと戻す。

この1週間で分かった事は、ツーくんは優しくて聞き上手の話し上手だという事。
女の子の買い物にも嫌な顔をせずに付き合ってくれ、歩くペースはいつの間にか合わせてくれている。

最初はいきなりの婚約者発言で困惑したし、正直嫌だったんですけど、ハルの次々の嫌がらせを難なくこなし
(無理矢理買い物に付き合わせたり、ツーくんの知らない話題で延々と喋っていた)、逆にハルを喜ばせてくれた。
婚約者というのはしっくり来ないけど、一緒にいたい気持ちが増し、お付き合いを開始した。

「ツーくん。」
「何?」
「呼んでみただけです。」
「ハルちゃん。」
「何ですか?」
「呼んでみただけ。」

お互いを見つめたまま自然と笑みが零れる。そしてどちらともなくそっと手を握った。
学校が遠くに見えてくる。授業開始まではまだ時間がある。

「ちょっと寄り道しちゃおっか。」
「授業に間に合えば問題ありませんもんね。」

学校に着いてもクラスは一緒だが、女子同士男子同士でいる方が多くなる。
となると次に2人になれるのは放課後。それまでの約7時間は別々になってしまう。

「ねぇツーくん。」
「ん?」
「ツーくんはいきなり婚約者とか嫌じゃありませんでしたか?」
「‥‥ハルちゃん嫌だった?」
「そんな事ないです!」
「あはは、なら良かった。俺はハルちゃんだから良いと思ったんだよ。」
「ツーくん‥。」
「それに婚約者って決めたの俺だし。」
「‥‥はひ?!」
「聞いてない?俺が小さい頃、親に言ったのを叶えてくれたんだよ。」
「‥そ、そうだったんですか。」

知りませんでした。ということは今ハルとお付き合いしているのはツーくんが望んでくれたから、なんですよね‥。
はひ!そう考えると恥ずかしくなってきました。

「あ‥、」
「あ?」
「‥‥。」

ありがとうなんて言ったら可笑しいですよね。言い掛けて止めるのも可笑しいですが、後に続く言葉が思い付きませんし‥。

「ハルちゃん、そろそろ学校行こっか。」
「は、はい。」

助け船を出してくれて一安心。カバンを背負い直し前髪を少し整える。
よしと気合いを入れると、不意に後ろから抱き締められた。

「ツーくん?」
「ハルちゃん、あ、の続きは?」
「え、えーっと‥。」
「うん。」
「な、何でもないです。」
「ふぅん。ねぇ、ハルちゃん。」
「何ですか?」

ツーくんはハルを抱き締めたまま、耳元で話す。時々掛かる息が擽ったくてどきどきする。

「あ。」
「あ?」

ハルが聞き返すとツーくんはとろけるような笑みを浮かべた。


「あ、い、し、て、る。」


さぁ行こうかと手を引いてツーくんは歩きだす。釣られて倒けないようにハルも歩きだす。
触れている手が、熱い。繋がれた手と手の先のツーくんを、交互に見てしまう。

‥‥もう、どうしてくれるんですか。
せっかく直したのにカバンはずり落ちるし髪は乱れる。
だけど何より、赤くなりすぎた頬が戻るまで、時間がかかりそうです。






愛のはじまり
そしてそれから‥



(言葉じゃ恥ずかしいから、学校に着いたら急いで作りますね。)
(小さなメモに大きな気持ちを込めて。)

『あいしてる』







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