novel
□地上にはないお気に入り
1ページ/1ページ
「いってきまーす!!」
「いってらっしゃい。」
元気の良い声が響く。
といっても実際に周囲の人の耳に入るのは後者だけだが。
あむはラン達に連れられ、公園に足を向けていた。
子供から見たら普通のスベリダイでも、しゅごキャラ見れば立派なジェットコースター。砂場なんかは砂漠のようで一種のサバイバルになる。
「あんま遠くに行かないでよー。」
はぁいという声が返ってきて、あむはやれやれといった調子でベンチに座る。
「たまには遊んでみたいかも‥。」
「何が?」
「だからさー、公園とか遊んだ記憶あんまり無いし‥‥ってイクト?!」
「よ。」
神出鬼没にも程がある。いきなり声を掛けられて驚いた拍子にベンチからずるりと落ちてしまった。
「いたた。」
「何落ちてんだよ。」
「あんたのせいじゃん!」
「ほら。」
自然にすっと差し出される手。
その手を掴むと、ぐいっと引かれ立ち上がらせてくれた。
「あ、ありがと。」
「どーいたしまして。」
手を離すかと思いきや、横向きの状態からイクトが一瞬しゃがみ、あたしの背中と膝に腕を掛け持ち上げた。
俗にいうお姫様だっこの状態。
「な、何すんの!下ろして!」
「遊ぶんだろ?付き合ってやるからおとなしくしてな。」
「いいって!」
「んで、どれがいい?」
「人の話を聞けー!」
あむの叫びも虚しく、お姫様だっこのまま遊具へと連行された。
「まずはスベリダイー。」
「さすがに2人は無理だって!」
「おまえちっさいし大丈夫だろ。」
「だからー、っきゃ!」
スベリダイの頂上でまずイクトが座り、その膝の上で抱き締められるように座らされる。
「恥ずかしいからヤダ!」
「はい出発。」
「ってマジですかー?!」
2人で滑るから安定が悪く、膝の上に乗っている分、普通よりも高い景色が見える。落ちそうになるのが怖くて、ぎゅっとイクトにしがみ付いた。
「離しちゃダメだからね!」
「はいはい。」
「っあ、何すんの!」
「耳ホント弱いな。」
ぎゃーぎゃーと煩く話している間に地上に着いた。
イクトは不敵な笑みを溢し、あむは余程怖く恥ずかしかったのかイクトを睨み付けている。
「もー帰る!」
ぷいとそっぽを向いてしまったあむを見て、少しやりすぎたかなと思いイクトは黙り込む。
暫しの沈黙。
口火を切ったのはあむの方だった。
「‥怒った‥‥?」
不安そうに聞いてくるあむを見て、イクトは愛しさが込み上げてくる。
どうみてもイクトの方が悪いのだが、黙ってしまった原因が自分だと思いあむは不安になってしまったようだ。
バカな子ほど可愛いとはこういう事か、とぼんやり思った。
「‥イクト‥?」
「あー、怒ってねぇよ。バカだなぁとは思ったけど。」
「‥何それ。」
「可愛いって意味。」
もう一度何それ、と言ったあむの顔には笑顔が戻っていた。
怒った顔も困った顔も好きだけど、やっぱり笑った顔が一番かな。
「次何したい?それとも帰る?」
「んー‥。じゃあどっか座って喋ろ?」
「‥そだな。座るとこ、オススメあるけど来る?」
「うん。」
「んじゃ。」
帰ると言われないで安心した。
そんな思いを態度には出さず、慣れた手付きで再びあむを抱き抱えり、ひょいひょいと高めの木に登る。
丈夫な枝に腰を下ろし、はい到着、と座らせた。
「イクト?!」
「景色いーだろ?涼しいし俺のオススメ。」
「‥‥はぁ。」
諦めたように座り直す。
少しでもバランスを崩せば落ちてしまうので、あむはイクトの腕にしがみ付いたままで。
「今回だけだからね。」
そう言って寄り掛かってくるあむ。
それはやっぱり信頼されてるからな訳で。
小さな存在を、ただ1人の大切なこいつを守りたいと思った。
そして、俺以外の奴なんかには守らせたくないと思った。
地上数メートルの木の上で、落とさないように少しだけ力を込めた。
地上にはないお気に入り