novel

□ いつだって君が
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「第3回、三浦ハルのエスコート役は俺だ決定戦を開始する!」

わああと歓声が上がる。ボンゴレの守護者同士の決戦の幕が下ろされた。


「今回は知識だ。情報調査担当のハルには知識が絶対だからな。」

リボーンはハルの隣で会場を見下ろす。黒塗りの大きくて素材の良いソファーにでんと座り、面白そうに進行を進める。

「えっと、皆さん宜しくお願いします。」

照れたように笑うハルを見て守護者のやる気が一気に上がる。ハルはぺこりとお辞儀をしてソファーに座った。


このような企画が行われるようになったのは、数ヶ月前に遡る。


『なぁリボーン。俺が留守の間ハルを頼むな。』
『はぁ、何言ってんだ。』
『あ、だからって手出したらマジでキレるからね。』
『‥ちっ、めんどくせぇ。』

綱吉が任務や会議でボンゴレ本部を離れる時は、一番信頼しているリボーンにハルを頼んでいる。
最初の頃はリボーンも綱吉が帰ってくるまで、ハルに怪我でもさせないように目を光らせていたが、放っておくと過剰労働で食事は減るわ睡眠不足になるわで唯守るより質が悪い。
ハルには喜ばれ綱吉には怒られ、直ぐに面倒臭くなったリボーンは守護者に押し付けることにしたという訳だ。



「第1問。並森中校歌2番、最初の単語は?」

ピンポーン。

手元のボタンをいち早く押した雲雀のランプが赤く光る。
このセットは全てボンゴレの金で用意した。まぁたったの数十万。守護者のポケットマネーで買ったので、勿論綱吉は知らない。

「朝つゆ。」
「正解。」

ふんと鼻で笑う雲雀と一足遅れ悔しがる六道と獄寺とランボ。
山本と笹川は綱吉の護衛の為不在である。

「第2問。252×183÷63−82+29は、」
「679!」

誰よりも早くランプを点灯させ、自信満々に答えたのは獄寺。数秒のロスも許さない解答だったが。

「不正解。」
「な、何故ですか!」
「最後まで聞け。‥は、676だが、今俺は何回2と言ったでしょう。」
「4回です。今の質問を入れると5回ですね。」

にっこりと笑みを浮かべ答えたのは六道。
他から見れば女性がうっとりしてしまうような素敵な微笑みだが、性格を知っている者には獄寺等をバカにしているのが見て分かる。

「正解だ。」

クフと奇妙な声を漏らし、雲雀と獄寺は頭にカチンと来て今にも一触即発の状態だ。
ルールに、暴れた奴は即失格というのがあるお陰で惨事は起きていないが。
ランボはというと涙目でびくびくとしながら次の問題を待っている。

はぁ、先が思いやられるな。
リボーンは呆れながらも次の問題を言った。

「第3問、――――――」








「では結果発表を行う。」

長い戦いが終わった。
何処も壊されていないのが奇跡のようである。実際はグロい口論が繰り広げられていたが。
正解した得点をハルが纏めリボーンに渡す。

「どうぞ。」
「あぁ。‥今回の勝者は‥‥」

ごくり。唾を呑む音が静かになった部屋に小さく均衡を崩す。

「‥‥六道。」

ガシャン!

リボーンの声の直後に聞こえたのは雲雀と六道のトンファーと槍のぶつかり合い。

「何でこんな奴に負けなくちゃいけないのさ。」
「負け惜しみですか。意地汚いですよ。」

また始まったと呆れる獄寺と逃げようとしているランボ。実を言うと、2人は第1回、第2回の勝者である。

「あ、あの2人共止めて下さい。」
「ほら、ハルさんが困ってるじゃないですか。」
「何言ってんの。君がさっさと諦めればいい話でしょ。」

2人の間に挟まれて冷たい空気が流れる。
ハルが近くにいることで喧嘩という名の破壊行動はまだ行なわれていないが、それも何時まで保つのやら。

「リボーンちゃん、どうしましょう。」
「はぁ。おいお前等決まった事にぐちゃぐちゃ言うな。それとも2人共権利剥奪してやろうか?」
「‥‥此処は休戦しませんか?」
「‥‥ちっ、今回だけだよ。」

2人は渋々落ち着き、六道はハルの元へと足を踏み出した。

「その話、俺も聞きたいなぁ。」

咄嗟に防衛と攻撃の準備をとる。気配も感じさせず雲雀と六道の背後を取っていたのは‥‥、

「ツナさん!早かったんですね、おかえりなさい。」

綱吉はハルににこりと優しい笑みを向け、ただいまと応える。
その笑顔に逆に焦りを覚える守護者一同。ちなみにリボーンは綱吉がエレベーターからこの階に降りた時から気付いていた。

「何やってんの?」
「ツナさんがいない間危ないからって、ハルのボディーガードを決めてるんですよ。ツナさんがそう皆さんに言ってくれたんでしょう?」
「‥‥そっか。」

ぶわり。

正面にいるハルを避け、背後にいる守護者に殺気を放つ。
逃げ遅れた守護者はじっと黙り綱吉の次の言葉を待った。ここで言い訳をするのは火に油だ。

「リボーン‥‥?」

名前を呼んだだけだが、その中にはどういう事だという意味が含まれている。

リボーンはやれやれといった調子で面倒臭そうに口を開いた。

「俺だって自分の仕事がある。こいつらに頼んだら面白いくらいに引き受けてくれたぜ?」

「リボーン‥。」

はぁと重い溜め息を綱吉は吐いた。
リボーンならほハルにちょっかいを出さないだろうし、少なからずも信頼していたのだが、他者を出してくるとは迂闊だった。
まぁリボーンは許そう。昔の家庭教師時代の刷り込みのような躊躇いがあるからでは断じてないが。

「リボーンの言い分は分かった。まぁ考えられない事でも無かったしね。」

それから皆、

綱吉は慈愛のような笑みを浮かべて見渡す。
逃げ切れなかったランボは安心を取り戻し、獄寺はお心が広いです!と尊敬している。
六道と雲雀はまだ安心しきれないようで綱吉から距離を置いている。

「やだなぁ皆。気にしなくていいよ。俺のハルを守るのはボスの守護者として当たり前だろ?
つまり俺を助けるのだって当たり前。てことで、俺の任務任せるね。1人1つずつ。ちゃんと会議とかには出るから。」

よろしく。

一瞬にしてその場が凍り付いた。

それもその筈。綱吉はこれでもボンゴレ十代目。ボンゴレにおいて最強の強さを持つ。
しかし戦った相手は再起不能にはなるが死にはしない。それは相手にしてみれば同胞を殺されて怒り狂うより質が悪い。今度は俺もこうなるのかと恐怖させ、あちらから降伏させるといつたもの。
そうしてファミリーや同盟を大きくした綱吉の任務。
当然殺すだけ、又は話し合いなど到底出来ない守護者には難し過ぎる頼みだ。

「返事は?」

答えは1つ。他の答えなど許されない。

「イエス、ボス。」


皆、数時間前の自分を呪った。









「はぁー疲れた。」
「お疲れさまです。けど良かったんですか?ツナさん以外に任務を遂行出来る人はいないと思うんですが。」
「いいのいいの。喧嘩っ早い性格を少しでも直して貰わないとね。」
「‥ツナさん?」
「‥‥分かってるって。ちゃんと無理そうなら俺も出るから。」
「それでこそ私の好きなツナさんです。」

こう言われちゃしょうがない。
きっと俺はハルの頼みなら進んで引き受けるのだろう。色惚けとも言える状態に悪くないなと思い苦笑した。

「あ、でもツナさん。」
「何?」
「さっきの、俺のっていうのは、すごく嬉しかったです。」
「‥‥。」

さっき迄の怒りやわだかまりは何処へやら。
顔がにやけるのを抑え切れず、ハルを胸に押し付けるように抱き締めることで隠すことにした。





      い
      つ
      だ
      っ
      て
      君
      が
      中
      心
      な
      の
      さ
      !






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