novel

□ 夢物語のはじまり
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大きくなったら、ぜったい帰ってくるから!そしたら、‥‥


ピピピ、ピピピ。


手探しで目覚まし時計を止め、むくりと起き上がる

「‥懐かしいですね。」

幼い頃、仲良くしていたツーくん。親の出張で引っ越してしまったツーくんと最後に交わした会話。

「はひ?そしたら、‥‥何でしょう?」

少し考えたが分からず諦め、学校へ行く準備を始めた。





「今日は転校生の紹介をします。さぁ入って。」

今時転校生なんて珍しいですねと思いながらぼんやりと眺める。
教室からは黄色い声が交わされている。声に促されるようにその人を見てみると、西洋を思わせるような色素の薄い髪と肌をした男の人だった。

先生が挨拶を促す。転校生は頷いて話し出した。

「沢田綱吉です。昔この辺に住んでいました。慣れない事もあると思うけど、どうぞよろしく。」

はきはきとした話し方や最後に浮かべた笑顔に女子は釘付けだ。
男子にも好評みたいで先生の目を盗んで話し掛けたりしている。

「じゃあ沢田君は右後ろの席ね。」
「はい。」

小さな足音を立てて歩いてくる。
右後ろの席はハルの隣の空席ですし、挨拶とかした方がいいんでしょうか。

「あの、」
「‥ハルちゃん?」
「はひ?あの、どなたですか?」

あ、まずいです。今の会話で一瞬にして尊敬と敵対の眼差しが生まれました。
平凡な生活を送ってきたのに、これじゃ台無しです。

何とかこの場を逃れる方法を考えていると、転校生はにこりと笑った。

「え‥‥?」

がばり。

そんな音がしそうな程躊躇もなく、転校生はハルに抱き付いてきた。

「はひ?!へ、変態!離して下さい!」
「待って待って、俺だよ、昔一緒に遊んだだろ?」

そう言われて、昔会ったことがあったでしょうか?と考えを巡らす。
転校生の顔をじっと見ていたら、なんだかぼんやりと今朝見た夢が浮かんできました。
‥もしかして‥‥、

「‥‥‥ツーくん?」
「うん。」

ジタバタと暴れていたのを止めてじっと顔を見る。
背が高くなって、それは幼い頃だったから当たり前なんですけど、カッコイイこの人があのツーくん?
嘘だと言ってやりたいが、笑顔はあの頃のままで。

「ただいま、ハルちゃん。」
「うぅ、おかえりなさい。」

こんなに至近距離なんて、恥ずかしくて顔も見れない。

「お取り込み中悪いんだけど、席に座ってくれない?」
「はひ?」

先生に言われて改めて今の状態を見ると、教室で2人抱き合いながら話し続けていた。
一気に顔が赤くなって、腕の中から逃れ離れる。

敵対視していた女子が教室に響くように叫んだ。

「2人はどういう関係なんですかぁー?」

その声に反響するように教室が騒めき出す。
それ私も聞きたぁい。三浦さんずるいよねぇ。お前ら付き合ってんのー?
冷やかしが聞こえてきて耳を閉じたくなる。早く否定しなくては。

「あの、唯の幼なじみ、」
「婚約者だよ。」
「‥‥へ?」

え、今さらりととんでもない事を言いませんでしたか。

「あの、ちが、」
「うっそーマジでー?!」
「きゃあ!素敵!」
「あり得なーい!」

弁解しようと思ったのに周りに圧倒されて声が消えてしまった。
先生に助けを求めると、1時間目は自習ねーと退散してしまった。
ハルの味方はいないのですか‥。

落胆しているハルとは対称的に、ツーくんはにこにこと笑っていた。

「何てこと言うんですか!どうしてくれるんです!」
「あれ?知らないの?おばさんにはもう言ってあるんだけど。」
「はひー?!」

お母さんにまで裏切られるなんて‥。ハルはもうだめです‥。

「大丈夫だよ。俺がいれば大丈夫だよ、ハルちゃん。」
「ツーくん‥‥。」

そもそもの原因はあなたなんですけどね。心の中でこっそり悪態を吐いておいた。

「それに約束しただろ?」
「約束?」

ツーくんは本日3回目の笑顔を向けた。ただし、今度はハル限定のとろけるような笑顔で。

ハルの頭の中に今朝見たの夢が蘇る。

大きくなったら、ぜったい帰ってくるから!そしたら、‥‥



「帰ってきたら、今度はずっと一緒にいようって。」







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