novel
□ 給料3ヶ月分は、
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『‥ツナさんの、‥‥ツナさんのバカー!!』
携帯から大きな声が響き、鼓膜を震わせた。
「ハル?え、どうしたんだよ。」
『どうしたもこうしたもありません!ツナさんと会えなくなって、もう1週間なんですよ?!』
夏休みになり、部活に入っていない俺はバイトを始めた。
最初の内は日程は雇用側が決めるし、こちら側の要求はあまり受け入れられない。
まぁ、時間が長い方が給料も上がるし良いんだけど、ハルとの時間が短くなってしまった。
「毎日メールしてるだろ。電話もこうやって偶にしてるし。」
『それでもちゃんと会いたいんです!』
「そりゃ、俺もだけどさ‥。」
バイトを始めた理由は、親の負担を少しでも減らしたいというのと、‥‥その、デート代を稼がなきゃなーと思ったわけで。
学生だし割り勘がふつうなんだろうけど、男の見栄っていうか、立場っていうか。
とにかくお金はあって悪いもんじゃないし、喉乾いた時にさり気なくジュースを買ったりとか、カッコイイだろうなぁとか。
『ツナさん!ちゃんと聞いてるんですか?!』
「あぁ聞いてる、聞いてるって。ちゃんと休みもあるし、今度お詫びするから。何処か行きたい所考えといてよ。デートしよ。」
『そ、その手には乗りませんからね‥!ハルは怒ってるんですよ!』
大分ハルの声がおとなしくなってきた。口では怒ってると言っているが、携帯の向こうで照れているのが分かる。
俺は顔が緩くなるのを感じながら、やっぱハル可愛い、と思った。
『‥ツナさん?どうしたんですか?』
「あぁ、ごめんごめん。ハルってやっぱ可愛いなぁと思ってさ。」
『はひ?!』
「うん、可愛い。可愛いよ、ハル。」
『な、何を突然言い出すんですか‥!』
「照れてるのも、可愛いよね。」
『ハルはそんなんじゃ許しませんからね‥!』
文句も照れ隠しと思えば可愛いものだ。全然嫌な気がしない。
‥別に詰られるのが好きな訳じゃないよ。ハル限定だから。
「じゃあ、どうしたら許してくれる?」
『えっと‥‥、』
「はい。時間切れ。ねぇハル。今空いてる?」
『え?は、はい。』
「じゃあ窓から外、見てみてよ。」
『はひ?外、ですか?』
「うん、今ね。」
『はい‥。』
電話を始めて約10分。
俺はバイトの初めての給料で買った物を持ってハルの家に向かっていた。
2階にあるハルの部屋の窓の真下に立ち、ハルが窓のカーテンを開けるのを今か今かと待つ。
シャッ、と音がしてカーテンが開かれた。そして鍵の留め具をカチャリと外し、窓を開けた。
ハルは、まだ気付いていない。
『ツナさん?何ですか?特に星空が綺麗というわけではないのですが‥。』
「ハル、こっちだよ。」
『はひ?』
俺はカチと携帯の電源ボタンを押す。
いきなり携帯の通話を切られて、驚いたハルにもう一言。
「ハル、こっちだよ。」
「‥ツナさん?!」
「あぁ、やっと気付いた。出て来られる?」
「っ、今すぐ行きます!」
窓もそのままに、階段を下りてくる音が家の中から聞こえた。
やっと会える。
その思いは俺も同じ。
逸る気持ちを抑え、玄関の方へ移動した。
「‥ツナさん!」
「ハル、‥会いたかった。」
「ハルもです‥。」
久しぶりに会った喜びをどう表現したらいいか分からない。
ただ其処にいるというだけで、これほど喜びが込み上げてくるものなのだろうか。
「‥あぁ、そうだハル。」
「何ですか?」
「またいつか渡すからさ、取り敢えず受け取って欲しい物があるんだ。」
「はひ?」
ポケットから小さな箱を取り出して、ハルに渡す。
まだ何なのか分かっていないハルに微笑みながら、箱の蓋を開けた。
「給料3ヶ月分は、また今度ね?」
(ツナさん、これ‥!)
(俺のだ、って印付けたくてさ。)
*****
あとがき。