novel

□ ある日の出来事。
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カタカタカタカタ。

室内にはキーボードを叩く音が鳴り続けている。正確にキーを押し、どんどんデータの奥深くに入り込んでいく。

「ハルさん。後どれ程で終わりますか?」

カーン、キィーン。

廊下では金属が擦れ、打つかり合う音が鳴り続けている。敵を全員再起不能に追い込み、尚且つ無駄な動きはせず体力の消費を最小限に留めている。

「うーん、後、1分半くらいでデータ処理完了するので、それまでお願いします。」

「分かりました。」


キィーン。カタカタ。


2つの音はハーモニーを奏でるがごとく空気を響かせていた。
ただ、物騒なことには変わらないのだが。







――――――


「骸さん。データ処理完了しまし
た。」

「お疲れさまです。ハルさん。」

「序でにネットウイルスを入れておきましたから、もうデータが戻ることはありませんよ。」

「流石ですね。ハルさんの作るウイルスは難解と評判ですよ。」

「ふふ、ありがとうございます。骸さんもお疲れさまです。今回の相手は手強いと聞いていたんですが。」

「然程ではありませんでしたよ。少し遊ばせて頂きましたが。」

「やっぱり骸さんに護衛して頂けると安心ですね。」

「クフフ、ありがとうございます。」


互いの仕事の確認を済ませると、2人は屋敷をでようと動きだした。

今回の任務は情報収集。
いつもはハルが長を任せられている情報班の部下が出向くのだが、今回は大規模なデータと侵入困難なシステムの為、ハル自らが出向くこととなったのだ。


「それにしても、迷路みたいな構造ですね。この屋敷は。」

「侵入者避けなんでしょうね。僕たちみたいな者への。」

「はひー。少し時間がかかってしまいそうですね。」

「行きと道が違いますね。壁が増えている。まぁ、壊してしまえば一緒ですが。」

「骸さん。次の道を左、階段を下りて2つ目の角を右です。」

「分かりました。」


骸が先導し、増えた壁を壊しながら屋敷の出口へと急ぐ。
壁が増えたということは、生き残りがトラップを作動させたということ。つまり救援を呼んでいる可能性もある。
ハルも頑張って骸の後を付いていく。


「ハルさん、大丈夫ですか?」

「‥、はい。大丈夫、ですよ。」

「‥今、3階ですよね。次に窓が見えたら飛び降りましょう。」

「はひ?ハルには無理ですよ。」

「僕が抱えて飛びますから大丈夫です。あれでいいでしょう。さぁ、ハルさん。」

「え、は、はい。」

骸はハルを抱えると窓枠をひょいと飛び越え、そのままひゅるひゅると落下した。
ハルは骸の腕の中で、データの入ったパソコンを壊さないように衝撃に備えた。
地面に着く手前で骸は幻術による水柱を作り、その上に乗ったまま少しずつ幻術を消したので衝撃は皆無だった。
骸1人では何ともないのだが、ハルがいるので念の為施しておいた。


「着きましたよ、ハルさん。」

「あ、ありがとうございます。」

「どういたしましてと言いたいところなんですが、‥すみません。相手の方が一足早かったみたいです。」

「はひ?」


骸に促されハルが視線の先を見ると、そこには正門方向から攻めてくる敵の団体さん。
正門から来ているということは、多分裏門も固められているのだろう。


「はひ、どうしましょう。」

「困りましたねぇ。大したことはないのですが、人数が多い。」

「一々倒してたらアジトに帰るのが遅くなってしまいます。」

「まぁ、取り敢えず!」


ヴォンと骸は目の数字を四に変えた。三叉槍を構え振るう。
ハルには一振りにしか見えなかったが、一瞬にして周囲10mの敵が吹き飛んだ。
残った敵は躊躇いを生じ、立ち止まる。


「待機班から連絡が来るまで少し遊ぶことにしましょう。」

「‥骸さん。面倒臭いのは嫌いなんじゃなかったんですか?」

「偶には動かないと体が鈍ってしまいますからね。すぐ終わりますよ。」


骸はハルを安全な場所に移し、戦場に降り立った。
ハルははぁ、と溜め息を吐き、待機班からの連絡を待った。


「(せっかくスムーズにいっていたのに残念です。ツナさん達は別件ですし‥。)」


再度はぁと溜め息を吐く。骸1人でもきっと大丈夫だろうが、綱吉達がいた方が何倍も効率が良く、直ぐに終わるだろう。
それに長い間幹部を務めているとはいえ、戦いはあまり好きではない。


「ツナさん‥。」


イタリアの空の下、愛しい名前をハルは呟いた。




一方、骸は久々の骨の有る相手に喜び、戦いを繰り広げていた。
といっても面倒臭がりの骸は、其の程度のレベルの相手をするのも飽きてしまっていた。


「大分遊びましたし、もう終わりにしましょうか。」

しかし、まだ敵の数は多く、全てを倒そうと思うとてこずることになりそうだ。出来ないことは決して無いのだが。


「はぁ、面倒臭い。」


骸が幻術を使って倒そうとした時、団体さんの端から叫び声と叩き潰すような音が聞こえた。


「遅いよ。何やってんの。」

「おや、わざわざご足労ありがとうございます。」

「ホントむかつく。こいつらの次は君を噛み殺してあげるよ。」

「クフフ。ではさっさと終わらせてしまいましょうか。」


いつの間にか雲雀が参戦し、片っ端から次々と倒していく。骸も少し退屈が凌げたのか、倒れていく数の増加を促した。




遠く安全な場所から見ていたハルは、雲雀の姿を見つけ驚いた。


「はひ?どうして雲雀さんが?」

「遅いから迎えに来たんだよ。」

「‥ツナさん。」

「お疲れさま、ハル。」

「ごめんなさい。ハルの所為でツナさん達の任務の邪魔をしてしまいましたか?」

「ううん。こっちは終わってその帰りだから問題ないよ。」

「はひ、良かったです。あ、ありがとうございます。」

「うん。じゃあ帰ろっか。」

「え?でも骸さん達がまだ‥。」

「2人なら大丈夫だよ。それにあの2人を組ませた時が一番効率が良いんだ。多分直ぐに片が付くよ。」


綱吉の言った通り、敵の人数はかなり減っていた。このペースなら後数分で片が付くだろう。
ハルは2人の様子を見た後少し考え、綱吉の指示に従った。


「そうですね。ハルが此処にいてもお役に立ちませんし、先に帰らせて頂きます。」

「じゃあ車待たせてあるから。‥行くよ。」

「はい、ツナさん。」


綱吉はハルを抱き寄せ、宙を飛んだ。
ハルは然程驚くこともなく身を委ねる。
屋敷を飛び抜けている間、ハルの頭に浮かんだのは浮遊感によるデジャブだった。


「(先程も骸さんに掴まって飛び降りたって知ったら、ツナさんは驚くでしょうか。)」

「ん?何?」

「‥いいえ。何でもないですよ。」

「ふぅん。‥もう着くよ。」


驚くというよりも妬いてくれそうですね、とハルが考える。それを知ってか知らずか綱吉は含みを込めた返事を返した。
無事ボンゴレの車に着き、1台は綱吉とハルを乗せて出発した。もう1台は骸と雲雀の為、待機する。
但し、屋敷に残った2人が戻るのは何時になるか分からないが。何しろ2人の仲が良くないことはボンゴレでは有名であるので。


綱吉とハルを乗せた車はボンゴレアジトへと移動する。
ハルは綱吉といることで、やっと任務が終わったと実感し安堵の溜め息を吐いた。


「どうしたの?」

「いえ、久しぶりに外での仕事だったので緊張しただけです。」

「ハルが嫌なら他の奴に回すのに。」

「大丈夫です。ハルに出来ることはちゃんとしたいんです。」

「‥ハルらしいよ。」

「えへへ。」


綱吉とハルの間には今日も穏やかな空気が流れる。
何時になっても変わらないこの空気は、2人を何時までも引き寄せ共に過ごさせるだろう。
運転手からは見えない死角で、それを証明するがごとく、しっかりと手が繋がれていた。






ある日の出来事。

(ハル。)
(何ですか?)
(おかえり。)
(‥ただいまです。)





*****

あとがき。

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