novel

□ ピンクの猫
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「お。あむ、ゲーセン寄らね?」
「え?」


イクトと2人で街を歩いているとイクトがゲームセンターを見つけ、寄らないかと勧めた。
あたしは別に断る理由もないので隣を付いてゲームセンターに入った。

ウィーンと音がして透明なドアが開く。
中からは賑やかな音が流れてきた。


「イクト、ゲーセン好きなの?」
「偶に入るくらいだけどな。」
「ふぅん。」


目の前にはきらきらとライトが点滅しているカードゲームや、お菓子が積み重なっているクレーンゲームがある。
ゲームセンターは広く、奥の方からも明るい音楽やわいわいとした話し声が聞こえてくる。


「ほら、行くぞ。」
「うん‥。」


いつまでも入り口付近で立っていたあむをイクトが促すが、あむは後ろ髪を引かれるようになかなか動こうとしない。
イクトがあむの視線の先を見てみると、そこにはUFOキャッチャーがあった。


「‥あむ、あっち行ってみようぜ。」
「え?‥うん!」


UFOキャッチャーの方へ歩いていき十数種類あるUFOキャッチャーを眺める。


「へぇ、割と多いな。」
「これ可愛い‥。」
「ん、どれ?」
「や、その、‥‥こ、これ。」
「ん。これな。」


可愛いと、不覚にも口に出してしまい焦るあむも、イクトの前ではクールキャラを外して素直になる。
あむの焦って、悩んで、少し恥ずかしい気持ちをイクトは理解し、あむの頑張りを愛おしく思った。


「ピンクの猫?」
「うん。何かさっきからずっと気になっちゃって。」
「‥ふぅん。俺が取ってやるよ。」


そのぬいぐるみを見ていると、イクトは口元を少し上げ意味ありげに笑った。


「え、いいよ別に!」
「でも気に入ったんだろ?」
「そう、だけど‥。」
「おっけ。ちょっと待ってろよ。」


そう言うと、イクトはズボンのポケットから財布を取出し、小銭を投入口にチャリンと入れた。
左右と前後に移動させる為のボタンが光り、ゲームのスタートを告げる。


「よし。」
「イクト、取れそう‥?」
「まぁ見てろよ。」


まず左右のボタンを押す。
タランタランと音を鳴らしながらクレーンが動く。
そして次は前後のボタンを押し、動かす。
ボタンを離し、クレーンの動きが止まる。
クレーンのアームが開き、ゆっくりと下がっていき、そして―――


コロン。


ピンクの猫のぬいぐるみはクレーンのアームに引っ掛かり、ころころと転がり、受け取りのホールに、‥落ちた。


「イクトすごい!」
「よっと。ほら。」
「わぁ、ありがとう!あたしすっごく大事にするね!」
「どーいたしまして。あむ、何であむがそれ気になったか教えてやろっか。」
「へ?イクト分かるの?」


あむの問いに、イクトは先程のように口元を少し上げて応えた。


「猫は俺。ピンクはあむ。だからそれは俺とおまえ。」
「え、あ‥。」


あむはやっと気になって答えに気が付き、すごく恥ずかしくなった。勿論嬉しいのもあるけれど、それ以上に恥ずかしい。
知らず知らずに2人を意識していたことが。


「気になってたんだろ?」
「うっ。」
「大事にするって言ったよな?」
「うっ。」
「嬉しいんだろ?」
「‥‥もう!分かったから!」
「じゃあ、ちゃんとずっと持ってろよ?」
「‥‥‥分かった。」


イクトの真剣な表情に押されて、あむは了解してしまった。
しかし、すぐにいつものにやり顔に戻ったイクトにあむはしてやられたと思ったが、もう遅い。


「それ、分かる奴には惚気てるようにしか見えないよな。」
「な、」
「ちゃんと見える所に付けてろよ。」


顔を赤くして恥ずかしがるあむと楽しそうに笑うイクト。
そんな思い出を携えて、ピンクの猫は2人の間で微笑んでいた。




ピンク猫→ピンク







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