novel

□ 戯れ合う子猫たち
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「わぁ〜、綺麗‥‥。」
「あぁ、凄いな‥‥。」


満天星空の下。
あたしとイクトは誰もいない草原の真ん中で空を見上げて寝転がっていた。


「ホント、星が落ちてきそう‥。」
「これだけの沢山の星、都会じゃ見れねーしな。」


あたし達は専務さんの別荘に来ていた。
あたしが星が見たいとイクトに話したのがきっかけで、どうせなら都会から離れて見ようということで専務さんが提案してくれたのだ。
あたしは夜の公園とかプラネタリウムを考えていたのに、大規模な天体観測になってしまい驚いた。
だけど結局、専務さんの今までの詫びも兼ねてのご好意に甘えることとなった。


「それにしても、やっぱり専務さんってお金持ちなんだね。」
「まぁな‥。一応イースターの専務な訳だし、イースターは大企業だしな。」
「ふぅん。‥イースターとは、色々あったけど‥、今は専務さんやひかる君達がいるから大丈夫だよね!」
「‥やっぱ、あむは凄いな。」
「へ?」
「そのままでいてくれよな。」


あたしは意味がよく分からないまま、うんと応えた。
イクトはあたしを一撫ですると、また星を望む。
きらきらと輝く星に囲まれた世界で、イクトはとても綺麗に見えた。男の子に綺麗なんてふつうは思わないけど、イクトには綺麗も似合ってしまう。
あたしは少し甘えたくなって、イクトの方に少し近寄った。


「‥ん?どーした?」
「別に。‥ちょっと寄りたくなっただけ。」
「‥そっか。」
「‥そーなの。」
「じゃ、俺も。」


少し近寄った距離が、イクトも寄ったことで大分近くなる。
目の前にいるのに、触れない。
すれすれの距離であたしとイクトは見つめ合う。
くっついているよりも、今の状態の方が恥ずかしくなってきて、あたしはその少しの距離を、埋めた。


「‥あむ?」
「‥‥」
「おまえの方から甘えるなんて珍しいな。」
「‥偶にはいいの。」
「俺的には嬉しいから全然構わねぇけどな。」


きゅっとイクトの服を掴み、胸に顔を埋める。
こうしているとちょっと、ううん、凄く安心する。
イクトの顔が見れないのが、少し残念だけど。


「これから毎年来ようぜ。」
「うん。」
「なんか、今日はやけに素直だな。」
「ん‥、なんか、ね。イクトとあたしだけしかいないみたいで、イクトがいっぱいな感じで、安心する‥。」
「‥‥‥おまえさ、それ反則。」


反則?何が?
そう尋ねる前にイクトにぎゅっと抱き締められた。
あたしはびっくりして少し息が出来なくなって顔をあげる。
すると、イクトと目が合った。


「可愛すぎ。」
「えっ?」
「もーヤバイくらい。」
「え、ちょっ。」
「お望み通り、俺でいっぱいにしてやるから。な。」
「―――っ!」


いきなり口を塞がれ息が出来ない。
イクトの顔がすぐ近くにあって、キスされているとわかった頃には、イクトは顔を離してニヤニヤとあたしを見ていた。


「――っ、イクトっ!」
「何?」
「急に何すんのよ!」
「キスした。」
「って、そうじゃなくて、」
「可愛すぎるあむが悪い。」


またイクトの顔が近付いてきて、あたしはぎゅっと目をつぶる。
イクトは耳元であむ、と囁いた後、あたしの唇をぺろりと舐めた。

低くて色っぽい声に背筋が震える。舐められて、ふつうにキスするよりも顔が熱くなった。


「‥‥」
「‥‥」


あたしが睨んでもイクトは悪びれた様子もなくて、逆に腹が立つくらい楽しそうな顔をしている。
胸を押して身体を離そうとしても、イクトの方が力が強くて離れない。


「あーむ。」
「何っ!」
「ごめん。」
「謝るなら最初から、」
「好きだ。」
「、しない、でよ‥‥。」


最後の方は自分でも聞き取れないくらい小さい声になってしまった。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
後ろに逃げ場はない。それに此処にはあたしとイクトしかいない。


「あむは俺のこと好き?」


自分は好きだと簡単に言えるのに、あたしに尋ねる時のイクトはいつだって自信無さげになる。

こんなふうにあたしを振り回しといて、ずるい。
そんなの、決まってるのに。


「‥‥‥ばか‥。」


あたしはもう一度イクトの胸に顔を埋めて、小さな声で好き、と呟いた。

空に舞う星たちが、きらりと輝き笑った気がした。







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