novel
□ 閉じられ沈み、わかれ
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※このおはなしにはオリキャラが出てきます。
このおはなしはハルの悲恋話です。
不快に思われる方はお戻り下さい。大丈夫な方は下へどうぞ。
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「ふぅ、これで終りですね。」
「隊長、お疲れ様です。」
「ありがとう、ジャン。」
「いえ。」
ボンゴレ情報班では、今日も書類整理や世情の情報収入で忙しい様子が見られる。
幹部であり、情報班の隊長であるハルは最終チェックを終わらせ、副隊長であるジャンが労いの紅茶を運んだ。
「じゃあ、私はボスに書類を渡してきますね。」
「あ、僕も行きます。ボスに訂正書類を確認してもらいたいので。」
「では行きましょうか。」
「はい。」
ジャンが扉を開き、ハルが通ってから自分も通り、扉を閉める。
長い廊下をハルが先導に、その少し後ろにジャンが並び、2人はボスの執務室へと歩いていく。
執務室へと近付いた時、中からわぁっと歓声が聞こえた。
何だろうかと思いつつ、ハルは執務室の扉を開いた。
「失礼します。書類の確認を伺いにきました。」
「おぅ、ハルか。」
「山本さん、どうしたんですか?」
「いやな、ツナのやつ京子と付き合い始めたんだってさ。」
「‥え‥‥?」
「ツナも薄情だよなー。早く教えてくれりゃいいのに。」
「‥‥。」
ツナさんが京子ちゃんと‥?
ハルは頭の中が真っ白になり、ただ茫然と立ち尽くしてしまった。
早く此処から立ち去りたいのに、足が、口が、なかなか動いてくれない。
「ハル?どうした?」
「‥、」
「お話し中すみません。これをボスに渡して頂けますか?まだ僕達は執務がありますので、これで失礼します。」
「おぅ。確かに受け取ったぜ。」
「ありがとうございます。では、行きましょう、隊長。」
「‥あ‥‥、」
ジャンに腕を引かれ、動かなかった足が動く。書類はいつの間にか山本に渡っていた。
扉付近にいたので、出口はすぐ目の前にあり、敷居を越えて扉を閉めれば此処から去れる。
ハルはジャンの後に続いて執務室から出る。ジャンが扉を閉めようと手を掛けた時、ハルはボスのソファーに座っている綱吉をちらりと見た。
綱吉と目が合ったかもしれないと思った瞬間、バタン、と扉が閉められ、視界から綱吉は消えた。
「‥ツナ、さん‥‥。」
「‥‥隊長、ご自分のお部屋に戻りましょう。御供致します。」
「‥‥。」
「‥‥隊長。」
ジャンの声しか聞こえない。
綱吉の声も、姿も見えない。
やっと現実を突き付けられたハルは今にも泣き崩れそうだった。
「‥すみません、失礼します。」
「‥きゃっ?!」
「行きますよ、隊長。」
「な、何するんですか?!早く降ろしなさい!」
「降ろしません。」
「降ろしなさい!」
「嫌です。」
ハルに従順で紳士なジャンがハルをお姫様だっこして歩きだす。
今まで意見を反対された事はなく、ハルは訳が何が何だか分からなくなってしまう。
我慢していた涙が零れそうになり、視界が歪んでいく。
「隊長がお辛いのは分かってます。」
「‥‥。」
「お部屋に戻ったら、気が済むまで泣いて下さい。」
「なん、で‥。」
「‥ボスの事をお好きだったのでしょう?」
「‥っ!」
「隊長を見ていたら分かりますよ。僕は、‥僕も、ずっと隊長を見ていましたから。」
「‥ふぇ、うぅ‥。」
「隊長‥。」
廊下で泣き始めたハルを、ジャンは胸に押し付ける事で隠してくれた。ハルは縋り付くようにして嗚咽を零す。
ハルの部屋に着くと、ぶわっと想いが込み上げてきて、今度こそ声をあげて泣いた。
ジャンは何も言わず、ハルが泣き止むまで、ずっと傍にいてくれた。
声が枯れて喉が痛くなったハルに、ジャンは紅茶を入れてから帰っていった。
こくりと飲み、喉を潤す。
「(美味しい‥。)」
ジャンの紅茶。いつもハルを労い癒してくれるジャンの紅茶。
「(‥‥さようなら、ツナさん‥。)」
やっと、綱吉の初恋が実ったのだ。ちゃんと、祝福しないと。
綱吉が京子を好きな事なんて、ずっと前から知っていた事。
でも何時かはと期待していかけれど、もうこの恋を諦めないと。
「好き‥でした‥‥。」
長年の恋は、過去形に、思い出に変えて、終止符を打った。
――――――
バタン、と扉の閉まり音が聞こえる。
ハルと、情報班の部下であろう男が部屋から出ていったのを綱吉はちゃんと見ていた。
無意識に意識が扉の外へと向くが、気配を読む前に山本がこちらへやってきた。
「ツナ、ハルから書類だってさ。」
「‥ありがとう。」
「ツっ君、お仕事なら私席外した方がいい?」
「‥いや、待ってて。すぐ終わらせるから。」
「うん、頑張ってね。」
京子ちゃんの柔らかな笑顔を見てから、書類に取り掛かる。
普段ならすぐに終わる書類確認が、何故か上手く進まず焦らついた。
翌日、ボスの執務室にジャンが1人だけで訪れた。
護衛の獄寺が取り次ぎをして室内にジャンが入る。
「失礼します。昨日お渡し頂いた書類を頂きにきました。」
「あぁ、問題無かったよ。これで処理しておいてくれ。」
「分かりました。」
綱吉が書類を渡し、受け取ったジャンがぱらぱらと書類を捲って目に通す。
綱吉は先程から気になっていた事を率直にジャンに尋ねた。
「そういえば、ハルはどうしてる?」
「‥隊長は今日はお休みになっています。」
「え、具合悪いの?」
「大事をとってお休みしているので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「‥あぁ。」
何故だろう。
事実を述べられているだけなのに、苛々と不機嫌になってしまうのは。
「(気に食わない‥。)」
まるで、自分が一番ハルの事を分かっているというような部下の態度に、もやもやとした感情が生まれる。
昨日、執務室を出ていく時にハルの手を引いていた出来事を思い出し、綱吉は不快に感じた。
「十代目、どうなさいましたか?」
綱吉の不機嫌を感じ取った獄寺が声を掛ける。
綱吉には心配そうに、ジャンには鋭い視線を送っている獄寺。
綱吉は一触即発してしまいそうな獄寺の態度を見て冷静になり、簡単に言葉を返した。
「何でもないよ。君、後は宜しく。」
「はい。失礼しました。」
バタン、と扉が閉まる。
静寂も束の間、獄寺が綱吉に声を掛ける。
「十代目、気に食わないようなら俺が話を付けてきますが。」
「‥いいよ、ありがとう。」
「そうですか‥。」
「隼人、次の予定は?」
「はい、次は今度会合を行うファミリーとの‥―――」
獄寺の意識を反らす。昔よりは落ち着いた獄寺だが、綱吉が関わると喧嘩っ早い所は変わらない。
予定を読み上げている獄寺の隣で、綱吉は別の事を考えていた。
「(あいつは優秀な情報班の1人だ。)」
「(信頼、されているんだろう。)」
パタン、と予定帳が閉じられた音が鳴る。
「以上です。」
「ありがとう、隼人。」
誰に、とは考えずに思考を途切らせた。
不快な感情は原因も分からず閉じられる
解く事は必ずしも良いとは限らないのだ
その日から数ヶ月後、ハルとジャンは婚約する。
その時、京子と結ばれた綱吉は、一体何を思うのか。
今はただ、生温い感覚を彷徨う‥