novel

□ 甘いモノ
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「‥‥何、それ。」
「チョコレートケーキです。最近お菓子作りにはまってるんです。」
「ふぅん。」

此処はイーピンの家。
にも拘らず、雲雀は我が物顔でソファーに座って寛いでいる。

最初の頃は驚き戸惑っていたが、もう慣れてしまった。イーピンは然程気にせずお茶の準備を進める。

「どうぞ。珈琲で良かったですよね?」
「うん。」

イーピンの家には雲雀のマイカップが用意されている。
偶に、という頻度をかなり上回って訪ねてくる雲雀の為に、イーピンが用意したのだ。

「あ、そうだ。チョコレートケーキ食べませんか?今すぐ用意しますね!」
「‥‥、」

雲雀が何かしら言い掛けたが、イーピンは気付かずにいそいそと用意し始める。
2つのお皿に1切れずつ乗せて雲雀のところへと運ぶ。

「はい、どうぞ、雲雀さん。」
「‥うん。」

雲雀はきらきらと目を輝かせているイーピンの前で、ケーキをフォークで一口サイズに切り分け口に運ぶ。

「‥‥」
「ど、どうですか?」
「‥不味くはないんじゃない?」
「‥それって誉めてるんですか?」
「さぁね。そっちも食べさせてよ。」
「え?」

雲雀はフォークでイーピンの分のチョコレートケーキを指す。
一瞬呆気に取られたが、意味を理解したイーピンは元気良く、はい!、と言って自分のケーキを切り分けた。

「どうぞ。」
「‥‥」

イーピンのフォークを掴もうとせずに口を開けて待っている雲雀。
イーピンはどぎまぎしながらも、雲雀の口にケーキを運んだ。
ぱくり、と効果音が付きそうな様子で雲雀は口に含む。イーピンはすっ、とフォークを引いて口から出した。
もぐもぐと食べる雲雀は満更でもない様子で、イーピンは嬉しくなる。

「(何だか、餌付けしてる気分‥。)」
「‥君、今失礼な事考えなかった?」
「か、考えてないですよ!」
「‥イーピン。」
「えっと‥。」

餌付けなんて言える筈もなく、黙ってしまうイーピン。
雲雀はイーピンを見ながら珈琲をごくりと飲んだ。

「‥珈琲を飲んでるとケーキって甘く感じるね。」
「甘いの苦手なんですか?」
「‥別に、」

言葉を途切らせ、ケーキを一口サイズに切り分ける。
それをフォークで差し、雲雀は頭を傾げているイーピンの口に突っ込んだ。

「んむっ?!」
「‥‥」

とん、とフォークを置き、いきなりの事に焦っているイーピンの口を、雲雀は自分のそれで覆った。

「‥ん、ふぁっ、‥‥んっ‥。」

どんどん、と力の入っていない手でイーピンが苦しいと訴えるように叩く。
雲雀はイーピンの口内をひとしきり味わった後、名残惜しそうに離れた。

「‥はぁ、‥はぁ、‥ひ、ばり、さん‥?」

薄らと涙目で見てくるイーピンに雲雀はにやりと笑って、そっと耳元で言葉の続きを告げた。




君の方が甘いからね。






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