novel

□ 好き、の方程式
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「ねぇ、イクト。」
「ん?」
「‥えっと‥‥。」
「あむ?」


イクトと一緒にいるようになって随分経つが、これが恋なのかどうかまだあたしは分かっていなかった。
ううん、分からない振りをしていたのかもしれない。


「イクトさ、あたしといて嫌じゃない?」
「は?何言ってんの?」
「だって、あたしまだ子供だし。それに‥‥、」
「嫌な奴と一緒にいたりしねーよ。あむのこと、俺好きだし。」


イクトが簡単に好きと言えてしまうことに、半分嬉しくて半分淋しくなった。
素直に喜べないあたしがいる。それはきっと、最近読んだ本の所為。


「‥どーした?あむ、ちゃんと言って。」
「‥‥」
「‥あむ。」
「‥あのね、‥えっと、ねこってさ、気紛れなんだって。」
「‥‥は?」


イクトは訳が分からないといった顔をしている。
でもあたしには大問題。すごく大事で、確かめたいこと。


「イクトってさ、ねこじゃん。」
「‥まぁ、否定はしないけど。」
「それでね、いつか‥、いつかあたしのことも、嫌いになるんじゃないかと思って‥。」
「‥あむ‥。」
「そしたら、‥すっごく、不安になっちゃって‥。」


最後の方は言葉が小さくなってしまい、イクトに聞こえたかわからない。
涙がじわっと溢れてきて、必死に歯を食い縛って押さえた。


「‥っ、こんなの、あたしのキャラじゃないよね。」
「‥‥あむ。俺は確かに気紛れなねこかもしれない。」
「‥‥」
「‥だけど、あむのことは気紛れじゃない。俺はあむが好きだ。」
「‥イク、ト‥‥、」
「俺のこと、好きなんだろ?」


イクトはそう言ってあたしを抱き締めた。
今度は涙を我慢することなんかできなくて、嗚咽も漏れてしまう。
それでもイクトはあたしを離すことなく抱き締め続けてくれた。

‥‥本当は、わかってたの。
ずっと前から、もしかすると初めて会った時から、あたしはイクトを‥‥


「好き、だよ。あたし、‥イクトが、好き‥。」
「やっと言った。‥俺も、あむのこと好き。」


安心したようなイクトの声を聞いて、あたしはすごく嬉しくなった。
手で涙を拭ってからイクトを見上げる。イクトと視線が交わると、一瞬息の仕方を忘れた。
イクトはすごく愛おしそうにあたしを見てくるから、あたしは何だか嬉しさを越えて恥ずかしくなってきた。


「‥何か、あたしイクトに会った所為で泣き虫になったみたい。」
「‥いいじゃん。あむはさ‥、」


今のあたしの精一杯の意地っ張りもイクトには簡単に受けとめられてしまう。
イクトは言葉の途中で止め、顔をあたしの耳元に近づけていく。
あたしは神経が耳に集中してしまい、イクトの声が全身に響いた気がした。




「泣き顔も可愛いんだから。‥俺以外に、見せるなよ。」







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