novel

□ 赤く染まる兎
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「おだんご、一緒に帰ろうぜ。」
「イーヤ。なんであんたと一緒に帰らなきゃなんないのよ!」
「ふぅん。せっかくのケーキのサービス券があったんだけどなぁ。おだんごが行かないなら、」
「早く帰るわよ、星野!」
「ぷ。はいはい。」


単純なおだんごに感謝しつつ、見事放課後デートをゲットした。






「おまえ、ほんとケーキ好きだよなぁ。」
「ほえ?」
「ケーキ好きだよな、って。」
「うん!あったりまえでしょ!ケーキは女の子の元気の源なんだから!」
「へぇ。」
「もう。星野はケーキ嫌いなの?」
「別に嫌いって訳じゃないけど、そんなに沢山はなぁ。」
「別に普通でしょ?」


そう言って、おだんごはケーキを一欠片切り分けて口に運んだ。
テーブルの上にはショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、タルトなど、数種類のケーキが並んでいる。
見ただけでお腹一杯になりそうなケーキの山を、おだんごは幸せそうな顔をして食べ続けている。
普通ねぇ、と訝しく思いながら、俺は手前のコーヒーに口を付けた。


「ねぇ。じゃあ星野は何が好きなの?」
「へ?」
「だってケーキはそんなに好きじゃないんでしょ?」
「‥あぁ、その事。‥‥何だと思う?」
「うーん、星野の好きなものでしょ‥。」


おだんごは手を止めて、ケーキそっちのけで考え始める。
お。俺ケーキに勝った、とか考えてる自分に少し苦笑した。


「わかった!コーヒーでしょ!」
「まぁ好きだけど、別に。」
「じゃあチョコレート!」
「違う。」
「ハンバーグ!」
「違う。‥てかさっきから食べ物ばっかりだな。」
「だってわかんないんだもん。」
「わわかんねぇ?」
「‥うーんと‥‥。」


うんうんと唸っているおだんごが可愛くて、顔が少しにやつく。
今、俺はおだんごを独り占めしてんだなぁと考えて、顔が余計に緩んだのは言うまでもない。


「もー、降参!ねぇ、星野は何が好きなの?」
「ほんとにわかんねぇ?」
「わかんないから聞いてるんでしょ。」
「わかんないかなぁ。俺の、好きなもの。」
「だから、」
「俺の好きな‥‥女の子。」
「‥え?」


俺の方を向きながら話していたおだんごは、ぽかーんと効果音がしそうな表情で俺を見ている。
真剣に言ったつもりなんだけど、おだんごは鈍感だから、意味、わかってないんだろうな。
軽く肘をついて、拳に顔を乗せながら俺はおだんごを見た。
するとおだんごは下を向いてしまう。
どうしたんだろ。


「おだんご?」
「‥‥」
「どしたー?」
「‥‥あ、」
「あ?」


あ、あ、アイスクリーム食べたい、とか?
そんな事を考えていた俺に、おだんごの一言はかなりの一撃を加えた。


「‥あ、あたしの、好きな男の子、‥‥わかる?」


‥ちょ、何だよそれ。そんな展開考えてないっての。
顔をほのかに赤く染め、身長差の所為で上目遣いなおだんごは、ヤバいくらい可愛すぎる。
答えを求めて視線を送り続けているおだんごを、俺は思いきり抱き締めた。




赤く染まる


痛いよ、と腕の中から聞こえた声を無視して、そっとおでこに唇を寄せた。







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