novel

□ 昼下がりと淡い兆し
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今日は、ホワイトデー。

「‥‥はぁー。」

家では、テレビを点けるとひっきりなしにホワイトデーの番組が流れていた。
何だか居心地が悪くなって外に出てみれば、街中でもホワイトデー絡みのイベントばかりで持て囃されている。

「わざわざ会いに行くのもなぁ‥。」

今年のホワイトデーは日曜日。
恋人たちにとっては良い事だが、学生にとっては登下校や学校で気軽に渡す機会を奪われてしまったようで腑に落ちない。

俺は1ヶ月前のバレンタインデーで、母さんと京子ちゃんたちからチョコを貰った。
そして、ハルからは京子ちゃんとイーピンとクロームの共同チョコとは別に、ツナさんへ、と書かれた特性チョコを貰った。
京子ちゃんたちには山本たちと一緒にお菓子を買ってお返しをするつもりだし、母さんには花を渡そうと決めてる。
‥問題は、ハル。俺も山本たちとは別に、お返しをした方がいいのかな‥。

「どーしよ。‥‥ん?あれって‥、」

ハルだ。あと‥、雲雀‥さん?

どうして2人が一緒に?とか、何してんだろ?とか考えるより先に、俺は体が動き、気が付いた時には走りだしていた。

「――‥っ、ハル!」
「はひ?あ、ツナさん!」
「‥煩い。」

少し大きな声で呼べば、ハルと雲雀さんは俺に気付いて振り返った。
近付くにつれ、ハルと雲雀さんが隣にいる事が何だか気に喰わなくて、俺はハルの隣に行くと、ぐいと自分の方にハルを引き寄せた。

「はひ?!つ、ツナさん?」
「‥‥えっと‥、」

行動に移してみて、今更どうしてこんな事をしたのか自分でも分からなかった。
だけど雲雀さんより俺の方がハルと近いこの距離に、安心している自分がいる。

「‥すみません雲雀さん。俺たち用事があるので失礼します。」
「はひ、ツナさん?」
「行くよ、ハル。」
「あ、待ってください!」

頭にはてなを浮かべたままのハルを連れ出し、雲雀さんとは反対方向に歩きだす。
ハルと一緒に歩きながら、ちらと後ろを振り返ると、鬱陶しそうな様子で雲雀さんが歩き始めていた。

「――‥ツ‥‥ん、ツナさん!」
「えっと、ごめん、何?」
「ツナさん、ハルたちって今日何か約束してましたっけ?」
「いや、その、」
「はひ!もしかしてハルが忘れてツナさんを困らせちゃったんですか?!」
「あぁ違うって!ハルは何も悪くないから!」
「‥じゃあ、どうしたんですか?」

一先ず誤解を解いて、落ち着かせたハルに次に浮かんだ疑問。
それに答えるのは少し、いや、かなり気まずい。というか恥ずかしい。
だけどこのまま黙っている訳にもいかず、俺はハルの疑問に答えた。

「その、さ‥。今日、ホワイトデーだろ。それで、偶々、ほんとに偶々ハルがいたから、‥何かお返しでもしようと思って‥。」
「‥‥ツナさん‥!」
「あ、でもそんなに高い奴は無しな!少しぐらいなら奮発するから。」
「‥ツナさん!ハルはすーっごく!とーってもハッピーです!」
「は、ハル?!」

ハルは目を大きく開いて驚きを露にすると、勢い良く俺に抱き付いてきた。
俺は少し揺らいだが、何とか倒れずに済んだ。
それよりもこの状況に驚きを隠しきれない。

「ちょ、ハル?!」
「あ、ごめんなさい、ツナさん。喜びを表現しすぎちゃいました。」

えへへ、と笑ってハルはすぐに俺から離れた。
何となく寂しくなったのは気のせいだと思いたい。

「ツナさんからお返しが貰えるなんて、ハルは世界一幸せです!」
「ハル、それは言い過ぎ‥。それにそんなに高い奴は買えないし‥、」
「いいえ!ツナさんの気持ちが込もった物なら、例え消しゴムでも宝物にします!」
「‥‥ぷ、あはは。消しゴムはさすがに無いって。」
「そのくらい嬉しいってことですよ!」

ハルらしい考えに、俺はお腹を抱えて笑った。
やっぱりハルはいいよなぁとか、よく分からないことを考えて、この際お小遣いの大半を使おうと密かに決めた。

「じゃあ行こっか。適当に見て歩いて、色々店入って決めようか。」
「はい!わぁ、何だかデートみたいですね。」
「あー、まぁ、今日は特別ね。」
「ツナさんと初デートですー!」
「ちょ、ハル恥ずかしいって!」

嬉しそうにはしゃぐハルを見て、今日くらいはいいか、と宥めるのを思い直した。
胸の鼓動を早く打つ理由の中に、恥ずかしさとは別の理由が含まれているのは、まだ気付かないことにした。






昼下がりと淡い兆し


(そういえば、雲雀さんと何話してたの?)
(えっと、何だか中華風のお菓子かアクセサリーがないか聞かれたんです。雲雀さんもお返しですかね?)
(ふぅん、雲雀さんが‥‥、って、中華ってもしかして‥!)
(はひ?)


その日、並森町の何処かで爆発音が聞こえたのは、また別のおはなし。





*****



あとがき。

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