novel

□ また明日
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なぎひこが外国に留学してから、2年経った。寂しい時間は普通よりも長く感じて、何だか5年くらい経った気分。
そんな長い時間は、明日で終わる。明日、遂になぎひこが外国から帰ってくる。

1ヶ月前くらいに帰国予定を知らされて、それからはカレンダーに印を付けて指折り数える日々が続いた。
‥‥明日。明日になれば、なぎひこに会える。
逸る気持ちを抑えて、カレンダーをじぃっと見つめた。

(‥あ、お祝いとかしなきゃ!)

あたしは時計を見て、そんなに遅くない事を確認してから家を出た。
春も近いというのにもう暗くなっている空を見ながら、あたしはショッピングモールに向かって歩きだした。

(ちょっと‥寒いかも‥)

冷たい風が当たり、ぶるりと震える。何となく周りを見ると、人の行き来は殆んどなかった。
やっぱり寒いと家から出たくないよね、と考えながら早歩きで進んでいく。

暫くすると、向こうの電球の灯った街灯の下に、人がいることに気が付く。
人通りの少ない場所で人に会うことに何故か緊張してしまい、早歩きで立ち去ろうと決める。

(こんな所で何してるんだろう‥)

なるべく顔を見ないようにして歩く。
歩きながらちらりと盗み見ると、ブーツにジーパン、シャツにジャケットといったスタイリッシュで格好良い服装をしていた。

男の子かな。でも男の子にしては長くて綺麗な髪だなー、と思いつつ、その人の横を通り過ぎた。


「‥って、本当に通り過ぎないでよ。」

(‥‥え?)


後ろから聞こえた声は、思いもよらない、だけど、あたしがずっと望んでいた声だった。
未だに信じられなくて、恐る恐る後ろを振り返る。
すると其処には、大好きな人の姿があった。


「僕のこと忘れちゃった?」
「‥なぎ、ひこ‥?」
「正解。ただいま、あむちゃん。」


にこりと笑う姿は、昔のなぎひこと一緒。でもやっぱり背も伸びてるし、すごく格好良くなってる。
あたしは嬉しいのも半面、何が何だか分からなくてパニック状態になる。
だって、なぎひこは明日帰ってくる予定で、でもなぎひこは今此処にいて。あれ?え、どうなってるの?!


「あむちゃーん。どうしたの?」
「なぎひこ‥、本物、だよね?」
「ん?そうだよ?‥‥あぁ、お願いして、早く帰ってこれるように向こうで手続きしたんだ。」
「‥‥あ、そうなんだ‥。」


なぎひこに説明してもらって、あたしはやっとなぎひこが帰ってきたことを実感できた。

(‥なぎひこ、‥なぎひこが、いる。帰って、きたんだ‥)

こっそりなぎひこを見上げると、なぎひこはすぐにあたしに気が付いてにこりと笑う。
その笑顔にどきどきしながらも、あたしはまだ、なぎひこに言ってないことに気が付いた。


「ねぇ、なぎひこ!」
「何?あむちゃん。」


声が聞こえる距離、手が届く距離に、なぎひこはいる。
会えなかった分は、これからたくさん色々な楽しみ思い出を作っていけばいい。
そんな気持ちを込めて、あたしはなぎひこに伝える。


「おかえりなさい!」
「‥‥ただいま。」


ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しくて。こんなふうに一緒に時間を過ごせることが幸せで。
色んな気持ちが胸を占める。

不意に、なぎひこが腕時計を見てからあたしに手を差し出す。
あたしは不思議に思いながらもその手を掴んだ。


「もう遅いから送るよ。」
「え?‥もう、帰っちゃうの?」
「本当は一緒にいたいけど、もう暗いしね‥。あ、何処か行く予定だった?」
「‥‥えっと、なぎひこに帰国のお祝い買いたくて‥。」
「‥じゃあ、明日一緒に買い物行かない?明日、迎えに行くよ。」


今日はもう帰らなくちゃいけないのが凄く寂しかったけど、それを上書きしてしまうくらい、なぎひこの言葉に心を奪われた。

(‥‥明日‥。
そっか、もうあたし達には一緒の明日があるんだ。)

そう思うと嬉しくて、本当はまだ帰りたくなかったけど、一緒の明日が来るなら、明日が楽しみになった。


「どうしたの?あむちゃん。」
「‥また明日って、言えるのが、いいなぁって思って‥。」
「‥‥うん。これからは、毎日会えるよ。」
「えへへ、うん。」
「‥待っててくれてありがとう、あむちゃん。」


手を軽く引き寄せて、なぎひこはそっと囁く。
あたしは繋いだなぎひこの手を、ずっと一緒にいてね、と気持ちを込めて、ぎゅっと握り返した。








また明日、って言わせてね
(一緒の明日が欲しいから)








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