novel

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鬱蒼と茂る木々の空いた空間で、風が葉を切る音だけが聞こえる。
綱吉が理由を教えて欲しいと請う間、クロームは2つの思いが胸を占めていた。

1つは、綱吉への憤慨。
ハルを傷付け、こんな人里離れた山奥まで追い込んでしまった、その原因となる言動に怒りを感じていた。
そして、もう1つはハルへの哀調。
心身共に弱っているハルを助けられるのは、良くも悪くも綱吉だけだろう。


綱吉に、勿論怒りはある。
しかし、それ以上にクロームにとって最優先すべきことは、ハルを助ける事だった。


「(‥これ以上、ハルの辛い姿を見たくない‥‥。)」


クロームは綱吉を真正面から見る。

ハルの所へ連れて行くべきか否か。見当違いな謝罪をされても、ハルは余計に傷付くだけだ。

見定めるように視線を向けた後、クロームはゆっくりと口を開いた。








――――――――


短くも長い時間が唯々流れた。
重苦しい空気の中で、綱吉はクロームの返答を待つことしか出来ない。

例えクロームに断られても、決して諦めず、ハルに会おうと決めていた。
いや、そんな義務感じゃない。
唯、ハルに会いたい気持ちしか其処にはなかった。

じとりと重苦しい空気を切ったのは、クロームの発した声だった。


「‥‥ボスは、人を怖いと思ったことはある?」

「‥‥人を?」


クロームの発した言葉は、最初、意味が理解出来なかった。
だが、直ぐにこれがハルを悲しませた原因だと気が付く。

綱吉は、あぁ、と端的に返して、続きを話すようにクロームに促す。
そうしながらも、綱吉は思考回路をフル回転させて原因を探していた。

クロームはもう一度綱吉を一瞥した後、言葉を続ける。


「‥‥この前の任務の時、ボスは無傷だったわ。でも服や身体には沢山血が付いていた。」

「‥‥」

「‥それでも平気に話すボスが‥‥、ハルは、ボスが、怖くなったのよ。」

「‥‥‥ハルが、オレを‥?」


反復して尋ねると、クロームは頷いて返した。そして、分からないなら会わさない、とでも言うように、綱吉から距離を取って目を凝らす。


原因となる理由を聞いて、綱吉は信じられないと言わんばかりに驚いた。

今迄もそのような事は多々あったが、何故今回に限って?
それとも今迄もハルを悲しませていた?

もっと、深い理由がある筈だ、と綱吉は記憶を探り、ハルとの会話を思い出す。
ハルを此処まで追い詰めてしまった原因の会話を。


「(‥‥オレは、何を言ってハルを悲しませたんだ‥‥。)」


いつものように任務から帰ると、ハルは駆け寄って出迎えてくれた。
ここまでは、特に変わった様子はなかった。




『ただいま。』

『おかえりなさい。‥ツナさん!怪我でもしたんですか?!』

『あぁ、大丈夫。』

『でも、血が沢山‥‥。』

『平気だよ。‥どうせ、』


‥どうせ、オレの血じゃないから。




綱吉は愕然とした。
自分の何気ない言葉に、どれ程の重みがあったのかを思い知った。
そして、いつからオレはこんな考え方をしてしまったのか、と自分に怒りと遣る瀬なさが沸き上がってくる。


「(流す血で解決出来る問題など、有りはしないのに‥。)」


忙しい非日常に流されて、感情まで麻痺していたんだろうか。
そう考えるが、そんな事は言い訳にもならない事を綱吉は知っている。

ボンゴレ十代目になったのは、血を流させる為じゃない。
いつか平和に導く為に、マフィアのボスになったんだ。
マフィアのボスになっていながら矛盾してはいるが、その意志は変わらない。いや、変えてはならない。


「(‥‥ハル‥。)」


今すぐ、ハルに会いたい。
会って謝りたい。
そして、今度こそ約束する。

綱吉は心を決め、顔を真直ぐにクロームに向ける。
先程迄の困惑は消え、はっきりとした意志が表れていた。
そして綱吉は、決意を告げる。


「‥必ず、約束する。」

「‥‥ボス?」

「ハルを、二度と傷付けはしない。」


オレはもう罪を犯さない。

忘れかけていた意志を思い出した。ならばもう、二度と血を流すような解決はしない。平和に導き、その世界で生きていく。
そしてハルを、二度と悲しませ、傷付けたりはしない。共に生きていきたい。ハルに、会いたい。


綱吉の真摯な姿に、クロームは考える。
綱吉なら、今の綱吉なら、ハルを助けられるかもしれない、と。

クロームは一筋の願いを込めて、しっかりと頷いてみせた。
そしてクロームは何処からか三叉槍を取り出し、地面をトンと柄で叩く。

空気の歪みが大きくなったかと思うと、次の瞬間には森の一部を囲んでいた幻術は解けていた。










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