novel

□ 晴れ傘
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陽射しが次第に強くなり、暑い夏がやってきた。
今年の梅雨は短くて、湿気が少なくからからとしている。それでも陽の下を歩けば汗は出るし、同じ道を歩いても倍のように感じてしまう。

暑くない、暑くない、と呪文のように唱えるが、やっぱり暑いものは暑い。
先日から使っている日傘のお陰で幾らかはマシになってはいるが。


「学校まで後少しです‥!」


自分に気合いを入れ、ラストスパートをかける。
電車から降りると直ぐに早足で前に出たので、人の混雑は無く、その点では快適だ。
先頭集団の後ろの方を歩いていても、後ろの集団はまだ追い付きそうもない。
少しペースを落とそうかと考えていたら、少し前に見知った後ろ姿が見え、歩くペースを上げた。


「ツナさん!」
「ん?‥あぁ、ハルか。」
「おはようございます。」
「おはよ。」
「ツナさん疲れてるんですか?」
「や、暑いだけ。」


そう言って手ではたはたと扇ぐツナさん。
首筋に汗が伝っている光景を見ながら、暑いですもんね、とは思わず、色っぽいです‥、と思ってしまったのは言わない。


「ツナさんはいつもこの電車なんですか?」
「うん。たまに一本後だけど、大抵これかな。」
「そうなんですかー。」


ツナさんはこの時間帯の電車の先頭にいる、と頭の中にメモを取る。
もう少し早く歩けば一緒に登校出来ちゃいます!と心の中で喜びを叫んだ。


「‥‥。」
「はひ?何ですか?」


じぃと見てくるツナさんに、ハルの考えがばれてしまったのかもと思い焦る。


「‥いいよなぁ。」
「何がですか?」
「女子だけ日傘ってズルいと思う。」
「別に男子が差しても、‥‥。」
「な、おかしいだろ?」
「想像しにくいですね‥。」

あちー、と首元の襟をぱたぱたと動かして空気を入れ換えるツナさん。

また見惚れそうになるのを我慢して進行方向を向く。
学校に続く坂を上りきれば陽射しから解放される。
そうなればツナさんと2人きりでは喋れなくなるのが、少し、いえ大分残念ではあるが。


「そだハル。」
「はひ?」
「俺も傘入れて。」
「え?‥は、はい!」
「いたた。」
「あ、すみません!」


勢い良く傾けた所為で日傘の骨の部分がツナさんに当たってしまった。
ツナさんはハルよりも背が高く、ハルが背伸びをしてやっと2人が入るくらい。


「いいよ、貸して。」
「え?」
「俺が持った方がいいだろ?」
「じゃあ、お願いします。」
「ん。」


持つのを代わってもらうと、視界が広くなった。傘で覆われた空間には、ハルとツナさんの2人だけ。


「これ、割りといいね。」
「女の子の必需品なんですよ。」


周りから見たらハル達はどう見えるのだろう。
‥恋人、とか、そんな風に思われてたら凄く嬉しいです。

空から隠れて、一時の2人の世界を楽しんだ。







晴れ傘



(また傘入ってもいい?)
(は、はい!勿論です!)
(はは、ありがと。)

約束しちゃいました!日傘に感謝です!





*****



あとがき。

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