novel

□空に咲く花、瞳に咲く華
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さむいです‥


ぶるり、と身体を震わせて、両手で露出された腕を擦るようにして温める。

夏になったので、以前よりも少し露出の高い服を選んだ。前々から着たいと思い、やっと手に入れた洋服は、袖が短く背中も少し開いている。
清楚な雰囲気の白いワンピースにオレンジのストーンネックレスを着け、オシャレに着飾った。
ナチュラルメイクをして髪を整え、仕上げに鏡の前で何回も私はカワイイ!と呪文をかけて準備は播但!


‥‥だった筈なんですが、電車の冷房やたくさんのお店の冷気が度重なり、身体は冷えてしまった。

ツナさんとの待ち合わせは駅の喫茶店の前ですし、此処を動く訳にはいきません。
ですが、太陽とはいかなくても温かい日差しか空気のある所に行かなくては、ハルは凍えてしまいそうです‥。


「――ハル!」
「ツナさん!」
「ごめんな、ハル待った?」
「いいえ、今来た所です。」
「じゃあ行こっか、‥あ、」
「何ですか?」
「もしかして寒い?」
「大丈夫ですよ。」
「ほんと?」
「うっ、‥ちょっとだけ寒いです。」
「てことはかなり寒いんだね。」
「あぅ、ツナさん‥。」
「俺にまで気使わなくていいよ。とりあえず駅から出ようか。少し暖まってからにしよう。」
「でも花火大会の時間が‥、」
「まだ時間あるし、ハルさえ良かったら何処か見える場所探して晩ごはん食べて帰ろ。」
「‥はい!」


ハルとツナさんはオープンテラスのカフェに行き、ハルはホットのキャラメルミルク珈琲を、ツナさんはアイスのカフェオレを頼んだ。
ホットを頼む時、店員さんに不思議そうな顔をされたけど、ツナさんが促してくれて、ハルの分まで払ってくれた。
ポイントカードにはポイントが2人分。トレイにはカップとグラスが1つずつ。


「ツナさん、お金ちゃんと払いますよ。」
「いいよ、これくらい。」
「ですが、」
「たまには男を立たせなって。」
「‥えっと、ありがとう、ございます。」
「うん。」


2人席に移動し、向かい合うようにして座る。
ハルは何だか嬉しくて恥ずかしくて、そわそわとしながらスプーンでカップを混ぜた。


「はぁ、やっぱ夏はすぐ喉が渇くな。」
「ですよね。あ、ツナさん。修業もいいですけど、ちゃんと水分補給もして下さいね。」
「はは、分かってるって。ハルは心配症だなぁ。」
「この前ふらふらで帰ってきたんですから。本当に心配したんですよ?」
「あの時は悪かったって。ちょっと過信し過ぎてた。」
「ツナさんのちょっとはあまり信用出来ません。」
「ハルにはお見通しだな。」
「勿論ですよ。ハルはツナさんの妻になるんですから。」


自信満々に言った後に、はっとする。
ここは並森じゃないですし、周りには見知らない人ばかりで、ハルの言った言葉が自分の中で少し響いた気がした。


恥ずかしい。
ツナさんもきっとこんな公道でハルの言葉を聞いて困ってるでしょうし。

そんなハルの悩みは、ツナさんの言葉ですぐに消え去った。


「そうだね。ハルが一生見ててくれるなら安心だ。」
「‥つ、ツナさん‥。」
「何?俺のお嫁さん?」


途端にハルはかぁーっと、顔を赤くして照れてしまう。いつも自分が言っている事をツナさんに言われると、こんなに恥ずかしいものなのだろうか。
そんなハルの様子を見てツナさんは小さく笑い、ハルの耳下でそっと囁いた。


大勢の前で宣言してくれるのも嬉しいけど、2人きりの時の方が安心かな。
俺の気持ち、少しは分かってくれた?


ハルはこくこくと頷くばかりで、暫く顔を上げることが出来なかった。

そんな愛らしいハルの様子を見ながら、2人きりならキス出来るのになぁ、とツナが呟いたことなど気付く事無く、甘い時間は過ぎていく。





――――――



「わぁ、やっぱり人が多いですねー。」
「今年は一万発だっけ?毎年よくやるよなー。‥少しくらいボンゴレに火薬譲ってくれないかな。」
「もう、ツナさんったら。‥でも本当にこれだけの火薬、何処から手に入れてるんでしょうね。」
「な、不思議だよなー。」


人波に飲まれながら、警備員の誘導に従って前へと進む。

途中、ラムネ2本とたこ焼き、焼きそばを買った。たこ焼きと焼きそばは半分個するつもりで1箱ずつ。
屋台で買っただけあって、定価の値段の倍くらいだった。


「ずっと人でいっぱいです‥。」
「こっちへ行けって言われたけど、本当に座れる場所なんてあるのかな。」
「これでなかったら最悪ですよー。」
「うーん、そうだなぁ‥。」


だらだらと人波に流されて進んでいると、ツナさんがいきなりハルの手を引き、脇道へと移動した。


「ツナさん?!どうしたんですか?」
「こっちこっち。」


ぐいぐいとツナさんに促され、脇道から少し離れた路地裏に移動した。
ハルが分かりかねないでいると、ツナさんはポケットから飴玉を取出し、ぱくりと食べた。


「ツナさん?」
「常備してたのがこんな所で役に立つとはな。」


ツナさんの額には炎が宿り、何処かツナさんの雰囲気が変わった。


「ハル、あの崖の上は見晴らしがいいと思うか?」
「え?は、はい。たぶん絶好の花火スポットです。でもあんなに高い所なんて‥、」
「なら問題ない。」
「きゃあ、つ、ツナさん?!」
「ハル、高い所は平気か?」
「大丈夫ですけど‥、」
「しっかり捕まっていろよ。」
「えぇえ?!」


ツナさんはハルを抱き上げると、片手にぼぅと炎を光らせ、次の瞬間宙に舞い上がった。
片腕はハルをしっかりと抱き寄せ、落とさないように力を込める。
宙に浮いてからは、方向を定めながら炎の放射を繰り返し、時たま足で建物の壁を蹴って移動する。

ハルはうっすらと目を開いて現状を把握するが、分かった事は、浮いている事と、ツナさんに抱き寄せられている事だけだった。


「‥ふぅ、着いたよ、ハル。」
「ハルは驚きで何も言えません‥。」
「ごめんごめん。でもこの方が早いし楽だっただろ?」
「そうですけど‥。」


苦笑しているツナさんを見ながら、ハルはこの人を好きになってよかったと再認識した。
それと同時に、ツナさんにはハルがいなくちゃダメなんです、とそんな事を考えながらゆっくりとツナさんに支えてもらい立ち上がった。


ツナさんの瞳にはハルが、ハルの瞳にはツナさんが映る。
次第にその瞳の距離は近付いていき、どちらともなく瞼が覆い目が閉じられていく。


ひゅるる〜、ドーン!!


大輪の花が空に咲いた時、2人の影は重なった。






空に咲く花、瞳に咲く華


(せっかくの花火を見逃しちゃったじゃないですか。)
(来年もまた来るから、な。)
(‥約束ですよ!)
(あぁ、また2人で見に来ような。)






*****






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