novel

□ 巡り、めぐり、メグル
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2人の男女はじっと見つめ合う。
どちらともなく2人は近付き距離を縮め、そして女が目を閉じたのを合図に、男女はキスをした‥‥‥―――


「うわぁっ!」

がばりと身体を勢い良く起こす。
心臓がばくばくして、上手く息が出来ない。
不意に掴んだ毛布を目の高さまで持ち上げ、漸く今の状況を把握した。

「ゆ、夢‥?」

夢にしてはいやにリアルだったような‥。
ぶんぶんと頭を振って考えを否定した。
だって、あり得ない。
嫌とかじゃなくて、てかそれ以前の問題に俺たちは付き合ってもいない。

「何で‥?!」

夢に見た男女は、俺と、ハルだった‥。





「ツナさん、こんにちは。」
「う、うん‥。」
「ツナさんどうしたんですか?何だかおかしいですよ?」
「な、何でもないから!だ、大丈夫。」
「そうですか?」

普段通りにハルと一緒に下校する。普段と変わらない筈なのに、今朝の夢の所為で何だかどきどきしてしまう。
不自然な態度を悟られないように、わざとらしく話題を振った。

「それよりさ、最近また寒くなったよな。」
「そうですね。朝お布団から出るのが辛いです。」
「俺もさ、朝起きるのが‥‥って、あぁ!」
「な、何ですかツナさん?!」
「何でもない、何でもないから!」

せっかく話題を変えたのに、また夢の事を思い出してしまう。
心配しているハルを見る度、ハルの唇に視線が向いてしまって‥、俺ってもしかして変態?!

「ねぇツナさん。帰りに駅前の雑貨屋さんに寄ってもいいですか?」
「え?‥あぁ、いいよ。」
「ありがとうございます!新作が出たらしいんですよ。」
「へぇ、そうなんだ。」

気のない返事を返す俺。心此処にあらずといった状態で、ハルの少し後ろを歩いていく。
学校から駅へと向かう途中の交差点で、運悪く信号は赤を灯していた。

「はひ、赤です。」
「‥此処ってなかなか変わらないんだよな。」
「そうなんですか?うー‥。ツナさん、階段から行きませんか?」
「そうだね。」
「では、レッツゴーです!」

ハルは意気揚々として階段を上ろうとした。
階段に足を掛けて、後ろにいる俺の方を振り返る。

「ほらツナさん!早く行きましょう?新作が売り切れちゃいますよ。」
「‥はいはい。」

そんなに早く売り切れる訳ないって、と思いながらハルの後に続く。
でも嬉しそうにはしゃぐハルを見ていると、何だか俺まで嬉しい気持ちになる。

「ほら、ちゃんと前見て歩けって。」
「えへへ。大丈夫で、」

ぐらり。

「えっ?」
「ハル?」

ハルが足を掛けた段が急に欠けて、バランスを崩したハルは階段の下方へと落下していく。
考えるよりも先に身体が動いて、ハルを庇うように一緒に俺も階段から落ちた。

「きゃあ!」
「ハル!」

ハルを腕の中に匿い、向きを変えて俺が地面に向かうようにする。
俺は腕の力を強め、次に来る衝撃に備えた。

どん!

ぐわんと金槌で叩かれたような衝撃を受け、頭の中がぐるぐる回る。
落下した時に唇に柔らかいものが触れたような気がしたけど、思考を動かす気力もなく、そのまま視界は暗転していった‥‥。





「うわぁっ!」

がばりと身体を勢い良く起こす。
瞬間、頭にぐわんと痛みが走った。

「‥ってぇー!」

頭を押さえるように、身体を埋くめる。勢い良く起きた所為なのか、頭が痛い。
不意に掴んだ毛布を目の高さまで持ち上げ、漸く今の状況を把握した。

「‥‥夢?」

夢にしてはいやにリアルだったような‥って、あれ、何かおかしくない?
前にもこんな事なかったっけ?

「ツーくん、起きたの?」
「‥え、なに母さん。」
「もぉ、忘れたの?ハルちゃんが心配してたわよ。」
「‥え‥‥?」
「早く降りて来なさいよー。」

母さんはとんとんと階段を降りていった。
部屋に1人残された俺。

「‥あれ?いつからが、夢‥?」

まだ痛みを伴う頭を抱えながら、ベットの上で記憶を巡り始めた。
この頭の痛みと、唇に残った柔らかい感触は、一体何なのだろうか。





巡り、めぐり、メグル‥

(お、おはようございます。ツナさん。)
(う、うん、おはよう。ハル。)




普段通りの、変わらない日常が、静かに変わり始める‥‥‥――――







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