novel

□ ベイビーパニック!
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静まった屋敷に、産声が上がった。



おぎゃあ、おぎゃあという元気な声を合図に、屋敷の一室の外で待機していた守護者達はゆっくりと扉を開く。

部屋の中にはベットに横たわるハルと、その手をぎゅっと握って労るように愛おしむように笑い掛ける綱吉。
そして、2人の隣の小さなベットには愛の結晶である2人の赤子が横たわっていた。

「‥‥ハル、ありがとう‥お疲れさま‥。」
「‥ツナさん‥、ハルは今、とっても幸せです‥。」
「うん‥、3人で、もっと幸せになろう‥。」
「‥はい‥。」

その様子を見た守護者達は、誰もが皆喜びを享受していた。
新しい生命の誕生が、これ程感動するものだとは思わなかった。想像を遥かに上回り、言葉にならない。
その中で獄寺は高ぶる思いが収まらず、敬愛すべき綱吉に向かって叫んだ。

「‥っ、十代目!お疲れさまでした!」
「‥‥いや、産んだの俺じゃないから。」

失言に気付かず泣き出す獄寺を筆頭に、守護者達は部屋の中に足を進める。
すぐに賑やかさを取り戻した部屋の中では、クロームがハルに駆け寄りおずおずと抱き締める姿や、山本達が綱吉と言葉を交わす姿が見られた。

今日この日は、ボンゴレ至上の歓喜に満ちた日になるだろう。
新たな生命と共に、穏やかで静かな日々を過ごしていく。

誰もが、そう思っていた‥‥







――――――
――


ガターン!

何かが倒れる音が響いた。
その音が綱吉とハルの寝室から聞こえてきた事に気付いた綱吉は、急いで寝室へと走る。
バン、と音を立てて扉を開くと、床に座り込んでいるハルを見つける。

「ハル?!ハルどうした?!」
「ツナ、さん‥‥。」

顔は少し青白くなっており、不安で狼狽えるハルは、綱吉を見て幾分か安心したような表情を浮かべる。
それでもハルの不安は消えることはなく、どうしたかと詰め寄る綱吉に、ハルは縋るように綱吉に不安の原因を言った。

「‥また、想来ちゃんが、いなくなっちゃったんです‥!」
「‥‥‥また、かよ‥‥。」

はぁ、と綱吉は溜め息を吐く。
想来ちゃん、というのは2人の子供のことであり、そして想来は脱走の常習犯である。
最近ハイハイが出来るようになった想来は、色んな場所に行けるのが嬉しいのか、目を盗んでは脱走を図る。
今回もハルが哺乳瓶を洗っている間に脱走したのだろう。
先程聞こえた倒れる音は、椅子の倒れる音だった。
ハルが崩れ落ちた時に倒したのだろう。椅子が不自然に横に倒れている。

「取り敢えず、守護者に連絡して皆で探そう。大丈夫だから、な。」
「‥はい‥‥。」

ハルを落ち着かせようと優しく微笑みかけながら、綱吉は内線を繋げる。

はてさて、脱走者想来の捕獲作戦はこうして幕を上げた。






「想来さーん、何処ですかー?」

綱吉から連絡を受けたランボは1つ上のフロアを探していた。
まさか別の階に移動してはいないと思うが念の為。名前を呼びながらキョロキョロと見回す。
早く見回って下のフロアに合流しようかなと思った時、ランボが肝が冷えるような光景を目にした。

「そっ、想来さん?!」

床から2m以上の高さにある窓の側に、想来は陽なたぼっこするようにして座っていた。
ランボの声に気付いた想来は、あー、うー、と舌足らずな言葉を話しながらランボに向かって手を伸ばす。
そして手が届かない事が分かると、手足を四つんばいにさせてハイハイの形をとる。
ゆっくりとランボの方へ進もうとした。

「ぎゃああ!危ない!うがっ!」

すかさず想来に駆け寄ったランボは、見事顔面で想来を受けとめた。
しかし、その勢いのまま倒れてしまい、気絶。
1人無事だった想来は、気絶したランボの顔から下り、頬をつんつんと突いた後、またハイハイで進みだした。





「何で僕がこんな事を‥。」

ぶつくさと文句を言いながら、雲雀は想来を探していた。
口は少し悪いが表情は心配した様子で、所々で立ち止まっては隙間などを見て回っている。

「‥‥何処にいるの。」

なかなか見つからない想来に不安が募り始める。一部屋ずつ確認しながら探し歩いていると、数部屋目のソファーの上にやっと目的の人物を見つけた。

「‥やっといた‥‥、っ!」

雲雀は傍に近寄り、もぞもぞと動いている想来を見た瞬間、声無き悲鳴を上げた。
想来はソファーに置いてあった猫の形をしたクッションに抱き付き、ぎゅうぎゅうと押したり引っ張ったりして遊んでいる。

「(何なの‥この可愛い生き物!)」

雲雀はにやけそうな顔を気合いで強張らせる。こんな顔は誰にも見せられないと必死である。
そのまま想来を見ていたが、はっと思い出したように雲雀は部屋を飛び出した。

「‥あー、うー‥。」

暫くすると、遊びに飽きてしまったのか、想来はぬいぐるみから離れて部屋を出ていってしまった。
丁度入れ違いで部屋に帰ってきた雲雀の視線の先には、もう想来はいない。雲雀の手には撮影用のカメラが握られていた。

想来はまだ捕まらない。





それからも捜索活動は続いたが、想来は1時間経っても見つからない。
屋敷のあちらこちらから、名前を連呼しながら探す声が聞こえている。
これだけ勢力を尽くしているのに見つからない。まぁ、今日に始まった事ではないのだが。

「想来、何処行ったんだよ‥。」

綱吉は守護者達に伝えた後、垣根を分けるように探したが、未だに想来は見つからないままだった。
頼りの超直感もなかなか上手くいかないらしい。
はぁ、と脱力した時、ハルが綱吉を呼ぶ声が聞こえた。

「ツナさんツナさん。」
「ん?見つかった?」
「来てください。」

声を少し小さくして話すハルに連れられ廊下を歩く。
そして何処だろうと思いながら着いた場所は、綱吉達の寝室だった。
シィーと口に人差し指を添えながら、ハルは寝室にある想来のベットを指差す。
大きな音を立てないように近付き、そっと覗き込むと、そこにはすやすやと幸せそうに眠る想来がいた。

「さっき部屋に戻ってみたら、寝ちゃってたんです。遊び疲れちゃったんですかね?」
「心配ばっか掛けさせて‥。まぁ、見つかってよかったよ。」
「ふふ、ちゃんと帰ってこれたんですね。」

きっと賢い子になりますよ、と言いながら微笑むハルの顔は、優しい母親の顔をしていた。
そんなハルの隣で綱吉は想来の頬をぷにぷにと突いてみる。
ボンゴレ総勢力を動かすなんて‥きっと、将来大物になるな、とか考えている綱吉は、もう既に親ばかなのだろう。

綱吉とハルは想来の傍で、顔を見合わせて笑った。









当初思い描いていた、穏やかで静かな日々とは違うけれど、楽しくて充実した日々を過ごしている。




つまり、結局は、

 毎日が幸せだという事。




(想来が見つかったと連絡を回すのをすっかり忘れていた綱吉とハルが、守護者達に怒られたのは言うまでもない。)










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