布団3

□泣いたっていいよ
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右上(私から見れば左上)に束ねられた髪が、さらさらと私の顔に流れてくる。
くすぐったくて身を捩ると、やんわりとした手つきと追いかけてきた唇にそれを阻まれた。



彼のキスは特徴的だった。
どんなに短いフレンチでも腰が砕けそうになるディープでも、まるで神聖な儀式を行うかのように清潔で、言ってしまえば子供の戯れに近しかった(こう言うと「馬鹿にしている」と怒るので内緒だ)。



澄んだ瞳に映る自分、どちらから洩れたのかわからない小さな笑い声、呼吸の合間も触れたままの唇、なぞられる体のライン、深い海に潜るようにソファーに沈む背中、どこまでも清らかな行為、共有されていく体温。
与えられる刺激のどれもが官能的に脳へ伝えられ、やはり彼は男であり私は女なのだと感じる。



ひとしきりキスを味わった後、トクサはようやく私から唇を離した。



「…変なの」
「何がですか?」



だって、と続けようとしたが、不意に近付いてきた彼にまた口を塞がれる。



(ほら、)



だって、いつもこんな風に甘えてこないじゃない。
私が甘えて、あなたが答えて。
そんな日常だったはず。



「…私だって、こんな時もあります」



見透かしたように告げられた後、いきなり強く抱き寄せられたから、次の言葉は告げることなく消えていった。



泣いたっていいよ




(いつもこれくらい素直ならいいのに)
(あなたが調子に乗るでしょう)




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