布団4

□雨
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連なっている文字列から神経を逸らすと、まだ雨音が聞こえていた。
朝からしとしとと続くそれは、季節を冬から春へと変える最後の寒々とした雨だった。



私はライオンハートに栞を挟んで、白く薄日が入る窓辺へ向かう。



ぺたり、と足を踏み出すたびに足裏を刺すような冷たさが覆ったが、幸か不幸か、ここは大豪邸でも何でもないただの小さな1ルーム。
その苦痛もほんの2、3歩で消え、いや、違う、ただ冷たさに慣れてしまっただけだ。
慣化とは須らく恐ろしい。



自らの体温で温まる床を感じながら、私はほとんど意味のないカーテンレースを横に引く。



「………」



やはり、降り続いている雨がそこにあった。
細く線を描いては落ちる水滴も、風に押されて窓ガラスに直線を示していた。



(可哀相に)



反射している向こう側の私が泣いているように見えた。
にこり、わざとらしく笑っても、涙は止め処なく溢れては流れ落ちた。
そこに触れると、さっき感じた床の冷たさよりも酷かった。



(可哀相に)



いつの間にか現実では泣けなくなってしまった私の代わりに、こうして片割れが窓の向こう側で泣いてくれるようになった。
どんなに私が笑っても、彼女はもっと惨めな顔で泣き崩れるのだ。



つ、と氷のような唇に触れてみる。
彼のキスはお世辞にも上手とは言えなかったけど、温かみだけは誰よりも持ち合わせていた。
それなのに、いくら無骨で熱いコーヒーカップに口付けてみても、到底彼の足元には及ばなかった。



どうしてなのか。
彼は、世界を救うと言って飛び出していった。



(私ひとり、笑わせられないくせに)



救うとは、人間を一人、なんて小規模で行われていないのか。
もっと大きな、私の想像を凌駕した別の次元で彼は生きているとでも言うのか。



あんなにキス下手な、私の可愛い彼が?
そんなところで私を待ってくれているの?



居た堪れなくなって、レースでもう一人の顔を隠した。



「さようなら」



誰かにお別れを告げて、私はライオンハートを開き直した。
この主人公たちと同じように、私たちもきっとそういう運命。







私の涙が蒸発して、雲になり、そして帰ってこない君へ降ればいい。



(きっと土砂降りよ)




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