布団4

□彼の名誉の為に黙秘する
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抜ける青空に入道雲が成長を続けている。
洗濯物に埋もれた誰が見ているのかわからないテレビ(時折ノイズが混じるそれは、私より彼との付き合いが長い)から流れる天気予報に耳をすますと、今日はこの夏一番の暑さになるらしい。



やれ洗濯日和だと音源を放つ部屋に向かうと、彼、ボリスが古い恋人の目の前に置かれたソファで眠っていた。
朝方まで渋っていたのだろう。
昼近くになるというのに、まだ深い夢の中を徘徊しているようだ。



大きなバスタオルを毛布代わりにして眠るボリスの隈は真っ黒に濃い。
それでも以前よりは幾分かましになったそこにそっと触れると、短く呻き声をあげてもぞもぞとタオル生地の下に逃げられてしまった。



(…、)



「俺は常に神経を尖らせている!」と豪語していたのは、どこのどいつだろうか。
彼に聞こえないように苦笑して、私は冷房のスイッチを押した。



彼の名誉の為に
黙秘する



冷麺をすすりながら彼は鼻高々に言う。



「狙撃手ってのは怨まれ役だからなあ、物音がしただけでも目が覚めちまうんだ。なんつうの、プロ意識ってやつ?」
「へ、へえ…、すごいね、ボリス」



(結局お昼まで起きてこなかったじゃない!)




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