布団2

□羊雲ララバイ
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自転車の後ろで、酸化銅色に染まる空を眺めていた。
じっと上を睨んでいる内に、目に映るすべての雲は美しい蜜柑色になっていき、思わず私は、携帯を片手に写真を撮った。



「何を撮ったんですか?」
「空」
「ロマンチストですね」



そういう私の彼も、大概ロマンチストだ。
下校は必ずといっていい程、この遠回りになる海沿いの国道を通るし、決まって太陽が地平線に沈む時である。



あえて口にはしないが、彼はかなりのロマンチストだ。



「背中、もっとくっついてもいいですよ」
「ありがと」



ゆっくりゆっくり、まるで時間の道を1歩ずつ踏みしめるように、彼はペダルをこぐ。
私が毎朝彼のために仕上げているセットを崩させないためか、ただ単に私の体重に彼の脚力が負けているのかは知らないが。



「ねえ、竜崎。寒いから、もっとゆっくり走って」



びくっと背中が揺れたかと思うと、彼は笑いを含んだ声でこう言った。



「了解です。姫」



羊雲ララバイ



私の嘘を見抜いた彼の背中は、とても暖かくて潮風の匂いがした。




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