布団2
□窓越しの逢瀬
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薄い水色の空が広がっていた。
雲は千切れた綿のように点々とあり、鳥は一羽として飛んでいない。
お前は、いつもこんな空を見ていたのか。
俺が戦場へ出る時には、欠かさず窓越しに見送ってくれた(それに気付いたのは、何度目の戦の時だったか)。
方天戟を掲げると、照れたように小さく手を振る仕草を見るのが好きだった。
赤兎も、そんなお前が好きだったのだろう。
門の近くまで来ると、必ず立ち止まって、城を振り向くようになっていた。
俺が腹を蹴らなければ、いつまでも。
だから赤兎は、俺が戟を掲げなくなってから、立ち止まることを辞めた。
むしろ、早く城から出たいかのように駆け始めたのだ。
俺は今更、何を思い出しているのか。
「お前は頭がいいな、赤兎よ」
赤兎は耳を動かせて、返事をよこした。
きっと、彼も懐古の記憶を思い起こしていたのだろう。
「…いくか」
戟を構え、腹を蹴る。
赤兎は、振り返らなかった。
窓越しの逢瀬
「どうかご無事で」と動いた唇が、今でも忘れられない。