布団
□指輪を銃弾に変えて
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崖から見える、海に沈まんとする真っ赤な夕焼けが目に痛かった。
(今日出発、か)
無意識に、寂しげな左手をさする。
あなたからもらった、大切な指輪。
「お国の為」と、鉄という鉄はすべて政府にしぼりとられ、もう薬指にははめていた跡すらない。
だからと言って、国が憎いとか、指輪を持っていったあの男が憎いとは思わなかった。
始まってしまったものは喧嘩なんかじゃなく、国家総動員の戦争なのだ。
もうそろそろ、太陽が消える。
(恋次)
死に、恐れはないの?
心の中で問い掛けても、ただ単調な間隔で波の音が聞こえるばかり。
太陽も残光だけおいて見えなくなった。
(ねえ、恋次)
私は怖いわ。
こうして崖から海をのぞむだけで、足がすくんでしまうもの。
「………」
悲しくなんかないのに、何故か涙が流れた。
(絶対に帰ってきて)
指輪を銃弾に変えて
私の指輪が、戦地のあなたの命を守るように祈っています。