布団3
□お返しは三倍以上
1ページ/1ページ
親しき仲にも礼儀あり、だっけ。
あれってすごくいい言葉だと思うの。
一言だけお礼言ったりお中元とか手紙とか送ったりとかで二人の仲が保たれるんだよ、とても素晴らしい格言だとは思わない?
「ああ、あの人は私のことなんか忘れて別の女に現を抜かしているんだわ!」なんて思ってる時にあの人から一言だけでもメールがきたら何もかも許せちゃうよ、きっと。
でさ、これを踏まえて例えばだよ例えばなんだけどね、バレンタインデーに贈り物をした女の子がいるとするじゃない、そうしたらさ義理だと分かっててもやっぱり多少なりともお返しをくれるのが礼儀ってもんじゃないの、かな…って思いました。
いや、催促はしてないよしてないんだけど、やっぱりさ、ほら、ね。
(寂しいじゃん、いろいろと)
黙って聞いていた彼は、ふむ、と頷いてから、ゆっくりとその思案顔をあげた。
「そなたの気持ちはよく分かった。しかし残念だがお返しと言えるものは何も準備しておらぬ」
「いいよ。そんなことでキャーキャー喜ぶ年でもないし、言ってみただけだから」
「いや、…実は少し違うのだ」
「え?」
ポケットから取り出されたそれは、明日から名字が変わる魔法の紙でした。
お返しは三倍以上
(受けとってくれるか、なんて)
(愚問よ、ダーリン!)