布団3
□あなたから卒業します
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桜が咲いた。
あと一日、たった一日だけ咲くのが早ければお前の笑顔が見れただろうに、桜は急かさず、お前は待たずに遠くへ行ってしまった。
なだらかな丘の上、去年までは二人の特等席だった桜の木の根本が広々と感じられ、お前の体温がない左側は冷たくなっていた。
「…桜なんか嫌いだ」
蕾が開く度、お前の旅立つその日が近づいてくる。
毎年その不安は大きくなるばかりで、それに比例して桜への思いも変わっていった。
お前は俺を残して消えていった。
そこにいなければ、見えないのだから消えたも同じことだろう。
好きだった。
好き過ぎて、離れられなかった。
多分、俺のような状態を依存と言うのだと思う。
これはいい機会ではないか。
そう言い聞かせないと、自分を保っていられそうもない。
「ち、つまらん。…帰るか」
立ち上がって、お前が行った方角に夕日を見た。
心の中で、さよなら、と呟いた。
あなたから卒業します
あいつなら、きっと向こうでも上手くやれるだろう。
(でもしばらくは、俺を思い出して泣いて欲しいな)