布団3
□蝉
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季節外れの蝉が鳴いていた。
しばらく静かな日が続いていたのだが、どうやら、まだ生き残りがいたようだ。
仲間は皆死んでしまったが、それでも鳴き叫ぶ蝉に、筆を止め、聞き惚れていると、思わず溜め息が溢れた。
今更、慕う相手もいないだろうに。
彼等は、哀れな生物だ。
本能にあらがうことも出来ず、自分が何をしているのかもわからず、ただ鳴いている。
同胞も、伴侶になるべき者も土へ還った今、何処に鳴く理由があるのだろう。
「三成様、」
障子の向こう側から、影を作って、従者が言った。
切実な悲鳴は、いつの間にか止んでいる。
「今行く」
それにしても、明日は雨が降りそうだ。
蝉
心穏やかに、天を仰ぐ。