布団3

□ベタ惚れなんです。
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苦しくて2人の間に手をやると、ほんの少しだけ名残惜しげに押し付けられてから、ようやく、ちゅ、と音をたてて離れた。



「いつまで経っても慣れませんねえ」



頬が蒸気している私に対して、余裕しゃくしゃくの表情を崩さないトクサ。
純粋な乙女は同じ部屋にいるだけで動悸が激しくなるというのに、目の前の冷血漢はキスをして心拍数が1でも上がったことなんてあるのだろうか。



「おや、言い返さないのですか?」



唇を触れさせたまま話すものだから、私のそれにトクサの吐息と声の振動が直に伝わる。
そうなると私は心臓を一掴みされたように身動きがとれなくなり、いつもみたいに「子供みたいなちゅーね」と茶化すこともできなくなってしまうことを奴は今までの経験から学習しているのだ。
女心はちっとも理解できないくせに、そういうところだけは敏感なんだから。



「この、いじわる!」
「自覚しています」



くつくつとそれは楽しそうに笑うこの半人野郎の頬を思いっきり抓ってやりたいところだが、こう接近していてはもっとひどい仕返しをされそうでそれも叶わない。
だからせめてもの抵抗で、視線から逃げるように彼の胸に顔を押し付けた。



「…可愛いことをする」
(このオネエ顔!毒吐き魔!麻呂!陰陽師かぶれ!どエス!)



思いつく限りの悪態も、口にすれば忽ち先程の言葉たちを体言するようなことをされるので、心の中で諳んる。
なのに、ああ、もう!



ベタ惚れなんです。



(そんな奴を好きだなんて)
(末代までの恥!)



「顔が真っ赤ですね」
「いちいち言わなくていい!」
「キス、してもいいですか?」
「い、いちいち言わなくていい…」



(ちゅ)




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