布団3

□夢を見たっていいでしょう?
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例えるなら、丁度今頃の透き通った空、春一番を乗せて駆け抜ける薄雲、葉の裏についた雫に反射する光、名を呼ぶ母の声のような、そんな恋。



儚さを優しさでコーティングして奏でられる物語は、幼心にも酷く沁みたのだろう。
断片を集めて漸く繋がった糸は私の身体を操り、こうしてデジャヴュを探して丘へと駆けさせる。



もしかしたら、ガラスの声を探しに王子さまが現れるかもしれない。



そうやって異国の物語を模ったパロディーに胸を躍らせた夢見がちな少女は、しかし日毎に現実を受け入れ始め、「次の舞踏会はいつかしら」なんて言わなくなった。
歩き難いガラスのヒールは海に沈めて人魚姫にもらったティアラも暖炉に焼べて、空想に迷い込む女の子は卒業したと思っていた。



それなのに。



「鍛練を抜けて考え事ですか、いい身分だ」



茨のような皮肉を投げ掛けられたかと思うと、ぬっと伸びてきた影。
やれ、一番口煩い奴に見つかってしまった。



「…折角の夢が台無し」
「は、妄想の間違いでしょう」
「あなたには狼か魔女役がお似合いね」



背後に立っていたトクサは、私の言葉を気にする素振りもせず、すとん、と隣に居座った。



まったく勝手な人だ。
私の気持ちはいつも無視して、ずかずかと土足で蹂躙してくる。
そしてそのまま毒林檎を寄越し、夢見る少女を面白みのないただのフィメイルへ変貌させてしまうのである。



「…本当に、台無し」



狡賢い狼、捻くれた魔女、意地悪な継母、猛毒を吐くドラゴン。
次々に浮かぶ悪役を重ねても、仕舞いには馬鹿馬鹿しくなって止めた。



ああ、トクサ。
どうしてあなたはトクサなの!



夢を見たって
いいでしょう?



(考えてみれば、)
(白馬の王子はどんな悪役よりも一枚上手)




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