布団3

□不眠症万歳!
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ぺらり、花柄のベッドの上で薄塩味のポテトチップスをかじりながらファッション雑誌を捲る。
そんなに服を買う方でも流行に敏感な方でもないけれど、あれやこれやと想像を膨らませるのが楽しくてそれが習慣になってしまっていた。



「眠い」



見開いたページを読み終わり、次の「今年のトレンド☆特集」を開こうとして、はた、後悔したがもう遅かった。
この手のお菓子は指に油や調味料がついて汚れるのだ。



つまり、捲れない。
ティッシュは遠いし指についた塩の粒を舐めるのも億劫ときた。



「………」



私は自分の右手を2秒見つめてから、こしこしとページの端に擦りつけた。
これで私は流行最前線へ、おや、そういえば何か聞こえた気がするが何だったろうか。



「眠い、眠い眠い眠い」
(あ、そうそう。眠いね、眠い)



寝転んだまま、懲りずにまた一枚摘み上げて口に放り込む。
それを確認したのかボリスはますます「眠い、ねむーい」とその三文字を連呼し始めた。



そりゃそうだ、常に神経を研ぎ澄ませている彼は、そう簡単には熟睡出来やしない。
例えば早朝から鳴き始める鳥の声、ラッシュアワーの乗り物の音、毎夜隣の家から聞こえる痴話喧嘩などなど、ボリスの安眠を妨害する素材など掃いて捨てるほどある。
でもだからと言って、私は只今このアグレッシブな配色の夏季号を読むというプライベートな時間を満喫している最中であり、一方的な単語会話に乗る理由はひとつもないのだ。



無視を続けていると、ボリスはあろうことかベッドの端まで四つん這いでのそのそやってきてそこに顎を載せ、た。



(か、可愛い!)



とりあえず下心に負けて一瞥しておく。
だがしかし、ぷい、とそれ以上彼に構わずにまたセール情報へと視点を合わせた。



ふむふむ、次は小さな花柄が流行るのか。



「ね、む、い」



つまらなそうに顎をかくかくさせる度、またついつい横目をやってしまうけど。



「…、おい」



痺れを切らしたのか、とうとう「眠い」以外の言葉を話す気になったようだ。
仕方がない、少しくらい譲ってあげてもいいのかな。



「なによ」



今日初めて合わせた目と目。



「眠い、わかってんだろ」



威嚇的なそれに、喉がつい「ぐっ」と間抜けな音を漏らす。
私は塩味の指を紙で拭いて、はあ、溜息を吐いた。



不眠症万歳!



「まったく…、眠れそうですか?」
「…やべえ」
「ん、何が?」
「興奮した」
(ぶふっ)
「おうおう、一丁前に照れてやがる」
「ち、違う馬鹿!いきなり変なこと言うから!」
「はは、怒んなよ。ほら、今度してやっから」



(ぽんぽん、と叩いたのは、)
(私と同じ場所でした!)




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