長編

□忠誠を誓った騎士
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生まれた時から、死んだ人間以外見たことなかった。

色はたくさん見てきたつもり。
空もたくさん見てきたつもり。
草も木も花も太陽も小鳥も魚も獣も見た。


でも、人間だけは……

死んだ人しか見たことなかった。周りは死人しか居なかった。

人間以外のものとは話したことあるけど、人間は死んでたから…

返事なんて返ってこなかった。



淋しかったわけじゃないし、怖かったわけでもない。

でも、何か嫌で、僕はその地を後にした。

どんなに遠くへ言っても、見るのは死人ばかり。


後になって気付いた。
僕の居た場所は、“戦場”だったんだって。

僕がどうして戦争に巻き込まれなかったのかは知らない。

両親が庇ってくれたのか……
生まれた時、初めて見たのは多分両親の死体だったんだろう。


僕は、歩くことで、たくさんの物を見た。

一番凄かったのは、死人の山だろうな。

人間がみんな死んでて、頂点には剣が刺さってた。

僕はその剣を死人の山から抜いて自分のものにした。


剣の使い方なんて知らなかったけど、その剣はとても綺麗で、思わず見惚れた。

一本の剣を持って、僕は歩いていく。

なんで死ななかったのかって言うと、僕は、食べ物のある場所が分かるから……とだけ言っておこう。

荒れ果てて崩れた城を見た。
中には死人は居なかった。

焦げ付いた臭い匂いがした。
人間はみんな燃えたんだろうな。


僕は、死人を見なかったことに少し安心した。

これも戦争の後なんだろうか…
家も城の中も、派手に荒らされていた。

家の中には家族の写真とかが並んでいた。

城の中には歴代の王の写真が飾られていた。

僕は心が少しだけ切なくなって泣いた。


僕は歩き続けた。

毎日歩いた。

ある日、遠くで音がした。
けたましく、でも勇ましい。
獣の声とは違う声。

凄い足音。
獣の数とは比にならない。
金属音。
獣の爪じゃない。
自分が持っている剣のような…


もしや……

僕は慎重に、近くに行ってみた。


死んだものしか見たことのないものが、たくさん居て、争っていた。

これが……人間。

僕は興奮と興味で胸が一杯になった。

もっと近くで見てみたい。
触ってみたい。話してみたい。
手を握ってみたい。撫でてみたい。

僕は興奮のあまり、走ってたくさんの人間の方に向かった。


人間はこちらに気付いたみたいだ。

僕は笑顔で走った。

人間は……僕に剣を向けてきた。


僕は何か嫌な予感がした。
……殺される。

僕の動きは止まった。

人間はこちらに向かってくる。

怖くなって、その場にへたりこんだ。

…殺される。怖い、死にたくない。

人間が近くまで来て、何かを言っていたが、僕は聞こえなかった。


気が動転しすぎて、何が何だか分からない。

人間が剣を振り上げた。

………!!




……?
……痛くない…。

恐る恐る上を見上げた。
小さな人間が、僕の前に居た大きな人間に、剣を突き刺していた。


僕は感動した。

小さな人間が僕を見た。

僕は少しびくついたが、この小さな人間は安心出来ると思った。


小さな人間が話し掛けてきた。


「……君、誰?」

これが人間と話した最初の言葉。


「……僕は…人間だよ。」

「見れば分かるよ?」

「……」

「何処から来たの?」

「ここからずっと遠い場所から……歩いて来たんだ。」

それ以上僕には分からなかった。人間相手に何を話していいのか……分からなかった。

「…とりあえずここは戦場だから……離れた方がいいよ?」

「……やだ…」

「…!?」

「…人間を…見ていたい。」

僕と小さな人間がそんなやりとりをしているうちに、粗方勝敗はついたようで……

僕は小さな人間に
「うちの国においで。」
と、言われたので、僕は小さな人間についていった。

これが、僕と姫の出会いだった。
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