短編

□BICYCLE
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自転車に乗って走る
いつからだったかもう忘れてしまったけど
変わらないことは一つ、自転車に乗るのは自分だけ
他に荷物なんて無いし、乗せる義理なんてないだろ

そうして乗っていた自転車
もう随分とボロボロになった

それでも走る
それしか出来ない

「その自転車、乗らしてよ」

誰かが言った

「ダメだ」

ぞんざいに言い放つ
自転車に触るな

「だってその自転車、制限100sまででしょ?」

この自転車は、100sまでなら壊れない
それくらい知ってる

「帰れ」

先を急ぐことにした
自転車にまたがるが、行く手を阻まれた

「どけ」

「どかない」

地面を蹴飛ばしペダルをこいだ
また自転車と二人きりになってしまった
寂しくはない
今までだってそうだった

「どうして1人なの?」

知らない奴だった

「死ね」

片言でしか話せない
昔からの癖なのだ

「友達になってあげるよ?」

「消えろ」

知らない奴は泣いてた
トボトボと帰っていった

自転車で走る
時には立ち漕ぎで
時には両手離しで

たまには転んでも悪くない

「なんで歩かないの?」

人間だった

「煩い」

「たまには歩かないと」

「煩い」

「自転車もボロボロだし」

「関係無い」

「……」

人間は自転車にまたがり、それを走らせる


「…おいっ」

あっという間に見えなくなった
とりあえず歩いてみた
すぐに疲れてへたり込んだ
歩いたことなんて数えたくらいしかない
自転車があったから

自転車は人間と一緒に戻ってきた

「返してほしければ、奪ってごらん」

自転車が自分から離れていく
必死に追い掛ける
思っていたよりも速かった
グングン引き離される

自転車…
自分の自転車…

疲れてヘトヘトになって、もう動けなくなった時に

人間が自転車とやってきた

「楽しかった?」

「……」

「自転車以外の友達が欲しかったんでしょ?」

顔が熱い
手も、もう動かない
人間の顔をじっと見つめて

「お前もだろ」







「欲しかったんだろ…」




「と、友達…」















自転車は返してもらえた
自転車にまたがって、出発の準備をする


「また遊んであげるよ」


「……」

「友達だからね」


「来ないのか?」

「え?」

「一緒に」

「……」

「友達…だろ?」


相変わらず片言しか出てこなかった
それでも人間は理解した
嬉しそうだ
そんな気がする

「じゃあ後ろ乗らしてね」

「……」

ずけずけと自転車に乗ってきた
ボロボロの自転車はギシギシしているが
100sまで耐えてくれる

自分と人間と自転車
今まで自分の重量しかかかっていなかった自転車は
少し重くなり
初めて自分以外のものを乗せた自転車を
ヨロヨロさせながら

自転車は今日も走る













自転車の二人乗りは、みんなしちゃいけないよ!!

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