11/29の日記

18:43
初めての人
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生まれた時から、死んだ人間以外見たことなかった。

色はたくさん見てきたつもり。
空もたくさん見てきたつもり。
草も木も花も太陽も小鳥も魚も獣も見た。


でも、人間だけは……

死んだ人しか見たことなかった。周りは死人しか居なかった。

人間以外のものとは話したことあるけど、人間は死んでたから…

返事なんて返ってこなかった。



淋しかったわけじゃないし、怖かったわけでもない。

でも、何か嫌で、僕はその地を後にした。

どんなに遠くへ言っても、見るのは死人ばかり。


後になって気付いた。
僕の居た場所は、“戦場”だったんだって。

僕がどうして戦争に巻き込まれなかったのかは知らない。

両親が庇ってくれたのか……
生まれた時、初めて見たのは多分両親の死体だったんだろう。


僕は、歩くことで、たくさんの物を見た。

一番凄かったのは、死人の山だろうな。

人間がみんな死んでて、頂点には剣が刺さってた。

僕はその剣を死人の山から抜いて自分のものにした。


剣の使い方なんて知らなかったけど、その剣はとても綺麗で、思わず見惚れた。

一本の剣を持って、僕は歩いていく。

なんで死ななかったのかって言うと、僕は、食べ物のある場所が分かるから……とだけ言っておこう。

荒れ果てて崩れた城を見た。
中には死人は居なかった。

焦げ付いた臭い匂いがした。
人間はみんな燃えたんだろうな。


僕は、死人を見なかったことに少し安心した。

これも戦争の後なんだろうか…
家も城の中も、派手に荒らされていた。

家の中には家族の写真とかが並んでいた。

城の中には歴代の王の写真が飾られていた。

僕は心が少しだけ切なくなって泣いた。


僕は歩き続けた。

毎日歩いた。

ある日、遠くで音がした。
けたましく、でも勇ましい。
獣の声とは違う声。

凄い足音。
獣の数とは比にならない。
金属音。
獣の爪じゃない。
自分が持っている剣のような…


もしや……

僕は慎重に、近くに行ってみた。


死んだものしか見たことのないものが、たくさん居て、争っていた。

これが……人間。

僕は興奮と興味で胸が一杯になった。

もっと近くで見てみたい。
触ってみたい。話してみたい。
手を握ってみたい。撫でてみたい。

僕は興奮のあまり、走ってたくさんの人間の方に向かった。


人間はこちらに気付いたみたいだ。

僕は笑顔で走った。

人間は……僕に剣を向けてきた。


僕は何か嫌な予感がした。
……殺される。

僕の動きは止まった。

人間はこちらに向かってくる。

怖くなって、その場にへたりこんだ。

…殺される。怖い、死にたくない。

人間が近くまで来て、何かを言っていたが、僕は聞こえなかった。


気が動転しすぎて、何が何だか分からない。

人間が剣を振り上げた。

………!!



……?
……痛くない…。

恐る恐る上を見上げた。
小さな人間が、僕の前に居た大きな人間に、剣を突き刺していた。


僕は感動した。

小さな人間が僕を見た。

僕は少しびくついたが、この小さな人間は安心出来ると思った。


小さな人間が話し掛けてきた。


「……君、誰?」

これが人間と話した最初の言葉。


「……僕は…人間だよ。」

「見れば分かるよ?」

「……」

「何処から来たの?」

「ここからずっと遠い場所から……歩いて来たんだ。」

それ以上僕には分からなかった。人間相手に何を話していいのか……分からなかった。

「…とりあえずここは戦場だから……離れた方がいいよ?」

「……やだ…」

「…!?」

「…人間を…見ていたい。」

僕と小さな人間がそんなやりとりをしているうちに、粗方勝敗はついたようで……

僕は小さな人間に
「うちの国においで。」
と、言われたので、僕は小さな人間についていった。

これが、僕と姫の出会いだった。


………、

「騎士?起きてる?」

現実に引き戻された。

「騎士!何寝てんだよ!」

「……起きてる。」

人間が周りに五人居る。
まるであの時と一緒だな。

姫のことを思い出すと、今でも無性に泣きたくなる。

姫を殺した後、仲間にはお前の所為じゃないと言われたが…

自分が姫を殺した。
だから自分で自分を殺した。

でも、蘇ってしまった。

姫も生まれ変わってる。ハズだと信じたい。

現に自分は姫を見つけた。
でも、彼女には、姫としての記憶が全くなかった。

やはりただの間違いなのか…

間違いだと思いたくない。

姫は、自分の傍で生まれ変わってくれていた。

そう思うだけで、気が楽だった。


姫は自分と最初に会ったとき、人間に囲まれて居たが、心の奥底では……孤高で孤独だった。

身分の違い、力の差、自分は女と言う自覚……

姫は女だと言うのに…剣を握り、国を救う為に男を装い、戦場へ行く。

彼女の力になりたくて…
僕は……いや、俺は…姫の騎士として…彼女を守るために……

剣を握った。

そして戦った。
人間を何人も殺した。

罪悪感はあったが…姫には替えられなかった。

姫は俺の全てだった。
姫は俺の為に…命を張って俺を助けてくれた。

見ず知らずの俺を……

姫は、初めての戦場で、俺を助ける為に…初めて人を殺したのだと言う。

ならば俺も姫の為に…人を殺す……姫の為なら…鬼になってやる。

それから俺は…生きる実感を持つようになったんだ。

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