Novel 1

□契約 2 (沐雨)
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一体感など無いはずなのに。

いつも互いの間に見えない境界線を引いて、背中を向け合っているのに。


俺の体力不足が敗因だなぁ。  ・・まだ目の奥が痛いや。
コートから離れた芝生の上に仰向けにひっくり返ると、拭いきれない大量の汗が
手足から流れ落ちる。


「英二」
仰向けになった俺を覗き込むように、氷が入ったビニール袋とそれを手にした
大石の顔が飛び込んでくる。
「目を冷やしたほうがいいかな、と思ってさ」
「・・サンキュ」
大石は小さめのタオルで俺の目を覆うと、その上から静かにアイシング用の氷の入った
ビニール袋を置いてくれる。

ひんやりと冷たくて、気持ちがいい。
目の奥にあった疼痛がすうっと消えて無くなっていく。


いつのまにか勝敗に関係なく、何故か試合後だけはお互いの傍が落ち着くようになっていた。
会話も無く、距離も近くない。けれど二人の間の沈黙が心地良くて。

日頃は二人だけでいると、居心地の悪さに耐えられなくて逃げ出すか、
背中を向けているのに。


少し距離を置いて座っているだろう大石が、珍しく話しかけてくる。
「乾が呆れてた」
「何でさ」
「いきなり本番で新しいフォーメーションが上手くいったからかな」
「・・・でも負けた」
大石は何も言わない。
さっきも試合の後、いつものようにコートに深くお辞儀をして、いなくなっていた。
「どこいってたんだよ」
不機嫌な、つい咎めるような口調にも大石は怒ったりしない。
「さっきの試合のどこが駄目だったか手塚に聞いてた」
・・また『手塚』かよ。


先にコートに戻るよと言われ、返事をせずにいるとそのうちに大石の気配が無くなる。

大石の『絶対』。

その『手塚』が部を離れ、負傷した肩の治療のために九州へ行くという話を
俺は後になって知らされた。
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