Novel 2

□情感
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人はどのくらい叶わぬ想いを抱き続けることができるのだろうか。
それが無理な願いである以上、人はいつか疲れ果ててしまうのではないか。
・・・そうして疲れ果てることは、許されることに良く似ている。




『・・・頼むぞ、英二』
テニスも、U−17も、もう自分には関係の無い世界だ。
3年間、とても楽しかった、とても幸せだった。
『お前とオレは二人で一人』
言うべきことももう無い、自身の全てを尽くしてあの場所から去ったのだ。
それは取り残されたような寂しさではない。
「おかしいな・・」
もう1年以上前の、とっくに済んだことを今頃思い出すなんてどうかしてる。


自室の机の引き出しを開けて、大切にとってある雑誌を引っ張り出す。
新聞の記事、たくさんのテニスの雑誌を広げる。
U−17としてこの国の代表選手として載っている越前、不二・・それから英二。
昨年のU−17には見知った顔がたくさんある、そうしてふと考え付く。

今の季節がU−17代表選考の時期であることに。


怪我さえしなければ・・今でも、いつまでも英二と溶け合っていられただろうか?
ふと小さく笑ってしまう、未だにそんなコトを考えるなんて。
自分には意志も諦めすらもなかったのかと呆れてしまう。


指先で雑誌の中の、15歳の英二に触れる。
この人がとても好きだった。けれど決して望んではならないことがこの世にはある。
その葛藤と戦い、乗り越えることが生きることなのか。
どれだけ、辛くても、どれだけ、苦しくても。


触れたい、という気持ちは尽きなかった。
焦がれるような想いを抱きながら、けれども自分の道も選んだ以上、それに向かい
全力を尽くすことも怠るわけにはいかなかった。


『青学の高等部へは行かない、外部の高校を受験する』


楽しい会話をすること、気持ち良く笑うこと。
それから、苦しんだことには何一つ触れないこと。
テニスを止めたのだから、諦めたのだから・・それは当然の帰結であり、
仕方の無いことだ。
「・・・英二」


会いたい、会えない。
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