Novel 2

□約信
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「越前は今日、泊まるから・・・英二はオレと寝ような」

英二のベッドを貸してくれる?シーツも枕カバーも今すぐ取り替えるからと
嬉しそうに笑って部屋を出ていく。

「はぁっ?!」
何言ってんだよっ!手が滑ってあやうく鍋を落としそうになる。


「・・・へぇ、大石サンと寝るのそんな嫌なんだ」
「うっさい、何だよ急に」
「メンタルの補強」
そんなふてぶてしいのに何がメンタルの強化だ、鋼の心臓の持ち主だって
しょっちゅう秀一郎は話してるぞ。

英二、新しいシーツはどこだ?廊下から聞こえる秀一郎のんびりとした声にはっとする。
「後で全部出すから、クローゼット開けんな!」
引っ張り出すことはできても、その後の片付けは誰がするんだよ・・。
とにかく秀一郎に家のことは一切させられない。
溢れかえった荷物もそのままで、全く平気なヤツなんだから。


外国での生活、テニスのこと、次に待つ大きな大会・・・秀一郎は聞き役だ。
おチビはほんの少しだけ言葉にして、それを秀一郎が繋げて会話として成り立っている。
こんな時、秀一郎はおチビの目を真剣に見て、頷いて聞いている。
どんな言葉も聞き逃さないように、というよりは包みこむように、だ。


後片付けをすませ、最後にシャワーを浴びたオレは、枕を抱いて秀一郎の部屋に入る。
ここのベッドはダブルベッドだ。小さかった頃は、オレもよくココで眠ってた。
小さめの水槽もここにある、真っ青なブルーベタが数匹いるだけだ。
気持ち良さそうに泳いでるなぁ・・。

パソコンに向かっていた秀一郎が、手を止める。
「もう寝ようか」
「仕事しとけば?オレ、電気ついてても眠れるよ」
「眠る30分前にはライトを小さく落として、脳を休ませること」
安眠するための小言に、また始まったなと小さく笑うとベッドに入る。

「何だか久しぶり、このベッドに泊まるの」
「そうだったか?」
足元の柔らかなランプだけにして、秀一郎もベッドに潜り込んでくる。
ボディソープの同じ匂い、後は秀一郎の肌の匂いかな・・このベッドにも染み込んでる。
少しだけ触れる体温は、何だかくすぐったいくらい気持ちいい。

「高校生だし、一緒には寝ないって言うかなと思ったんだ」
「・・・なんで?オレは別に何とも無いよ」
聞いたときはびっくりしたけどさ、リビングのソファは寝心地悪いし。
オレの寝相もあんまり良いほうじゃないしさ・・。

「まだコドモだな・・」
何処と無く安心したそぶりで、そっとオレの髪を撫でると目を閉じる。
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