Novel 2
□情感
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青学の高等部に進んだのはオレと不二と、それからタカさん。
手塚はドイツに渡って、乾は理系を極めるために外部、大石も外部に進学した。
『医者』という尊い仕事を選んだ大石。
怪我をしたことが、あんなにも大石を苦しめていたなんて。
大石が・・いつのまにか、テニスをすることに疲れていたなんて。
『青学の高等部へは行かない、外部の高校を受験する』
学年主席だった大石は、難関だと言われる偏差値の高い進学校に進学を決めた。
『大石っ!ラケット置いていけよ』
放り投げられたラケット、大石は寂しげでも泣きそうでもなかった。
真っ直ぐにオレを見つめて、そうしてとても柔らかく笑ったんだ。
己に厳しい、あれほど賢明な人間の夢をオレが打ち砕いてしまった。
この先どんな困難な試合があっても絶対に怯んだりしない、負けない。
オレは勝ち続けてみせる、必ずU−17の代表に残ってやる・・!
大石の分身であるラケットがオレの新しい相棒で、それは守護符にもなった。
オレがこの先テニスを続けること、それは全て自分自身のために、大石のために。
・・・あんなにテニスを続けたいと願っていた、大石の想いを継いで。
「英二、部活遅れるよ」
「不二」
腐れ縁、というのだろう。U−17、高等部、不二とテニスは何処にいても
いつも一緒だ。
「バックハンドのボレーの基本は?」
「身体の前でしっかりと打球すること・・デス」
握り替えが自由にできるグリップの握り方、それから前腕と手首を固定すること。
U−17では自分のプレイを理論できちんと説明することを学んだ。
頭で理解して、身体で実践する。
テニスは頭脳プレイでもある、そう言っていた長身の黒縁眼鏡を思い出して
小さく笑う。
大石のボレーもとても軽やかだった。
テニスを始めた頃、ボレーを打ち合う練習も根気良く付き合ってくれた。
力の入れ具合に注意して、正確な面を作って、その中心でボールを捉えること。
ダイレクトに続けるボレーが何回続くのか、二人で必死に数を数えて。
「・・・大石」
もうどのくらい、会ってないんだろう。